Posted by 一二三 - 2012.12.25,Tue
連作「睡」~第終夜~
続きモノの小説の最終話です。
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■ 第一夜
■ 第二夜
ようやく終わりました!;スイマセンお待たせして。
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その日の冴島邸の夜はいつもと違い賑やかだった。
2階から響くドスンという音と何かしら言い合う声に、執事のゴンザは気にせず緑茶をすする。
主が友人を伴って帰宅した時から、この事態は容易に想像できたからだ。
「まぁ、なんにせよ・・・賑やかなのは良いことですな。」
常日頃より、この屋敷は3人で住むには広すぎる。
静けさは時折耳に痛いほどだ。
まだ青年の時分の頃、ここではなく東の邸宅では使用人も数人住み込んでおり今よりもずっと賑やかだったことを憶えている。
ところが鋼牙様の母上りん様が亡くなってからというもの、まるで火を落としたかのように冴島家のすべてが静まった。
カオル様はそんな当家にようやく訪れた光・・・。
ゴンザはふと微笑んだ。
その光をこれからみんなで暖めて大事に育てていく・・・。
まるで夢のようだ。
『睡』
~第終夜「夢現」~
~第終夜「夢現」~
「なんだよ、場所が不満なのか?
じゃあ俺がカオルちゃんの横に・・・」
「ふざけるな。」
「いいじゃない、せっかくお泊りなんだから。」
「うるさい。
お前は自分の部屋で寝ろ!」
「ええー!ずるい!
零君だけ鋼牙と一緒なんてずるいずるい!」
カオルが口を膨らませて地団駄踏んだ。
「だからそれはホラーが!」
ゴンザが零用にとソファベッドを用意して、当然のようにカオルが俺のベッドに潜り込み、ふと気づけば川の字状態で横になっていた。
「まぁまぁ、一緒に寝てもカオルちゃんには害ないし良いじゃないか。」
ヘラヘラと軽口を言う零に、眉間の皺が深くなるのを感じる。
「今までは騎士しか襲っていなかったとしても、例外が無いとは言えない。」
「私のことは“絶対守ってくれる”んでしょう?」
「・・・・。」
お前、・・・それは卑怯だろう。
そう言いかけたのをすんでのところで引っ込めて厳しい目でカオルを見下ろすと、カオルは自分の枕をぎゅっと抱きしめながら訴える。
「それに、もしも鋼牙が目を醒まさなかったら?
絶対ない、って信じてるけど・・・でも自分の部屋じゃ安心して眠れないよ。」
病院で昏睡状態の零を見た時きっとカオルは怖かったんだろう。
今更ながら俺はようやく気付いた。
不安に思うのも仕方がない。
「わかった・・・・。」
結局ため息ひとつで了承し、夜は静けさを取り戻した。
俺と零は神官から貰った薬を飲んで横になる。
つい先程まで冴えていた頭は、まるで波に押し流されるように眠りに引き込まれていった。
―――・・・
夢の中で目を開けると、そこにはさっきと同じ自分の部屋の天井があった。
横で零が体を起こしながら問いかける。
「なんだよ、俺達ちゃんと寝たのか?
まるで同じ・・・うわぁ!」
零が最後まで言い切る前に、彼の身体が天井に張りつけになった・・・!
ドンと音を立て、まるで落ちるように天井に吸い寄せられた零が重力を無視して上体を起こす。
「っ・・!痛って~・・・どうなってんだよ!」
俺自身に変化はないし、家具や物も普段と変わらない。
零だけが天地逆転しているようだ。
彼ひとりここのルールから除外されている・・・ということは。
「ここは俺の夢の中か・・・。」
「みたいだな・・・ってぇ~~。
そういやカオルちゃんは?
無事なのか?」
キョロキョロと零が部屋を見渡すが、カオルの姿はない。
「大丈夫だ。
・・・あいつはいない。」
そう、俺は知っている。
「?・・・まぁ、無事ならいいや。
しかし俺だけ重力反対だなんて、まるでパニックルームみたいだな。
変な景色だぜ。」
「とにかくホラーを探そう。
おそらくはどこかで俺達を見張っているはずだ。」
「おう。
にしてもこれじゃ、ドアを開けるのも一苦労だな。」
零が天井につま先立ちでドアノブに手を伸ばす。
その光景に俺はため息付きながら、難なく扉を開けて廊下に出た。
「あ、おい!待てよ;
こちとら段差がすごい・・・って待てって!」
暗い廊下には月の光もない。
いつもと同じだ。
「二手に分かれるぞ。
お前は屋敷の西側を。
俺は東を探す。」
「一人で大丈夫なのか?」
「それはこっちの台詞だ。
天井から落ちるなよ。」
「・・・へいへい。」
零は天井の照明を跨いで西側に向かう。
ヤツとは反対の方向へ歩きながら俺はホラーの居場所を目指した。
零には悪いが、実は大体の見当はついている。
いつも夢に見る『あの部屋』だ。
夢の中で、この北の邸宅は東の冴島邸と途中から繋がっている。
夢を見ていて突然場所が変わったり距離を無視したりといったことはよくあることだ。
ホラーが細工しているとはいっても、基本は自分の夢の中なのだから良く理解していた。
時折見る『あの部屋』の夢・・・。
夢の中で俺はいつも『あの部屋』の扉の前に立つ。
そしてドアノブに手をかけて思うのだ。
開けていいのか?と。
この扉の向こうにあるものがとても恐ろしいもののような気がした。
そしていつも扉を開ける直前で、夢から醒める。
・・・そんな夢をもう何度も見ている。
手によく馴染むドアノブを握りしめ、俺は堅く目を閉じた。
おそらく、俺はずっと前から知っていたんだ。
この扉の向こう・・・『あの部屋』で誰が待っているのか。
何を恐れているのか、を。
ゆっくりとドアノブを回すとガチャリと扉が開いた。
部屋の中央に立つ人物が、背中を向けたまま語りかける。
「話をしよう。」
―――・・・
「・・・しっかし、暗いなー。」
零は冴島邸の天井を歩きながら、西側を探索していた。
その時、目の前の廊下を白い影が横切る。
「あ!カオルちゃん!?」
咄嗟に声をかけると、零の身体は天井の重力から自由になり真っ逆さまに廊下にベチャリと落ちた。
「痛てーーー!2度目だしっ!;」
「きゃ!零君!?
どうしたの?大丈夫??」
白いワンピース姿のカオルが零の二の腕を抱えて引っ張り上げる。
よろよろと立ち上がりながら、零はホッと息をついた。
「あーうん、俺さっきまで上下逆だったの。
それよりカオルちゃんも無事でよかったよ。
ここにはホラーがいるかもしれないんだから・・・。」
「ホラーが?
鋼牙は?鋼牙は無事なの!?」
「あぁ、あいつなら屋敷の東側に行ったよ。
カオルちゃんを見つけたし、とりあえず一旦合流するか。」
「・・・?」
そこで零は不思議に思った。
「カオルちゃん、俺は上下逆だったけど君は平気だったの?」
「へ?逆って?」
カオルはきょとんと首をかしげる。
「・・いいや、まぁ夢の中だし・・・常識外だよな。」
モヤモヤを振り払うように頭をひと振りすると、零はカオルを連れ立って鋼牙がいる東側に向かった。
―――・・・
扉の向こうの『あの部屋』は、やはり東の冴島邸の自室だった。
「話をしよう。」
背後を向けたままそう語りかけた男の顔は暗くて分からない。
俺は魔戒剣の鞘に左手をかけ、瞬時に抜刀できるよう構えて訊ねる。
「貴様がホラー・エルムか?」
応えるように男はゆっくりと振り向いた。
「――!」
目に飛び込んできた男の正体に、全ての思考が停止した。
いや、俺は知っていたんだ。
だから恐れていた。
まるで鏡を見ているように、そこに『自分』が立っている。
考えてみればそれは当然のことだった。
なぜならこの部屋は東の冴島邸の、俺自身の部屋なのだから。
「そう、もう何度も同じ夢を見ている。」
「ああ、そうだ。
これは夢だ。
所詮、貴様はホラーが作り出した幻だ。」
「俺は“お前”だ。夢じゃない。」
「貴様と話すことなどない。」
「俺にはある。」
己の最大の敵は自分、とよく言うがまさしくそれだった。
互いに一定の距離を保ちながら、いつでも懐に踏み込めるように部屋の中心を軸にしながら弧を描いてにじり寄る。
「前に進むためには捨てなければならなかった。」
「なんのことだ?」
「分かっているはずだ。
昔のこの部屋にお前は俺を押し込めた。
嫌なものを押し入れにしまい込んで忘れてしまうように。」
「違う・・・!」
「無理矢理にでも納得して進むしかなかった。」
「ああ、そうだ。
ここに何の希望がある?
俺は前に進むと決めたんだ。」
「だが未だに迷っている。
だから俺とこの部屋は存在しているんだ。」
違う、迷ってなどいない。
「・・・・俺は、カオルと生きていくと決めた。」
「魔戒騎士としての使命に生きる。
ずっとそうしてきたのに?
カオルは否が応にも巻き込まれるだろう。
それが正しいのか?」
「それは・・・・」
「俺には分かっている。
これは保険だと。」
「違う・・・ちがう・・・」
余裕のある相手とは違い、自分の顔が苦渋に歪む。
いや、歪んだのは相手の顔なのか?
どちらも俺自身だ。
「彼女を失っても自分独りで立っていられるように。
カオルに出会う前の自分に戻るために。
そのためにこの部屋を作った。」
「・・・戻りたいのか?あんなものに。」
怖気が走った。
「俺は嫌だ。
今ここで断ち切る・・・!」
向かい合った自分が同じく魔戒剣を抜いた。
「またか・・・。
あと何度、俺を殺せば気が済むんだ?」
―――・・・
「はぁ、はぁ、はぁ・・・あと何度・・・
こんなこと繰り返せば・・・?」
目の前に広がる凄惨な光景に眩暈がする。
酸欠のせいなのか、それとも心理的なものからくるのかもう分からない。
家具や壁中に散った飛沫は鉄臭くやけにリアルだ。
手になじむ武器の感触も今はぬるりとして気持ちが悪い。
カオルへの想いが増すほどに、この部屋は血生臭くなっていく。
魔戒騎士である自分を否定する気持ちが強くなっていく。
真っ赤に染まって横たわる自分の姿。
見せつけられている、と感じる。
俺がどうしたって、どうしようもないことを何度も何度も。
魔戒剣の血を払い、鞘に納めながらおぼつかない足で扉を目指した。
廊下に出て閉めたドアに凭れながら、ようやく肺の底から息をする。
そういえば零は無事だろうか?と思ったその時、暗い廊下の西側から声をかけられた。
―「鋼牙!」
ほっと薄く息を吐き出したのも束の間・・・
零の後ろで微笑む女の姿を見た瞬間、背筋が凍りついた。
夢と現実の境が音を立てて崩れていく。
すぐさま抜刀して剣先を女に向けた。
「零、早くそいつから離れろ。」
「え?」
「俺は一度も夢でカオルを見たことが無いんだ・・・!」
「じゃあ、まさか・・・!」
ハッとして零もカオルから離れる。
すると彼女の身体にノイズが走り、徐々に異形の化け物が姿を現し始めた。
「うーん、これは恐れ入った。
君が最も油断する相手だと思ったんだがね。
当てが外れてしまった。」
「お前がホラー・エルム・・・!」
現れたその姿はほとんど素体ホラーと変わらない様態だったが、鈍い光沢を放つ全身はまるで象牙のように品位と風格を漂わせていた。
その声も耳障りな金切り声ではなく、どこか紳士的な深みがある。
千年以上生きているだけあってか、ただならぬ雰囲気を放っていた。
「実は話したいことがあってね、君を探していたんだよ・・・ガロ。」
「話だと?ふざけるな・・・!」
零が双剣を構えてヤツに斬りかかる。
しかし、ホラーの姿はまるで煙のようにふわりと消えた・・・!
どこにいった!?と二人で周囲を警戒していると、ある一室の前で再び姿を現したホラーが扉を開けながら「中へどうぞ」と手を差し出した。
室内から溢れる光が、暗い廊下に線を作る。
「無知と無謀は若者の特権だが、命を粗末にしなさんな。
君はまだまだ伸びる。」
「ほら、そんな物騒なものしまって。
ここに座ってお茶でも飲みなさいよ。」
俺と零があっけにとられていると、ホラーは一足先に部屋の中へ入っていった。
ヤツを追って部屋の中に入ると、そこには畳が2畳・・・その上にちゃぶ台とこたつ。
ミカンが山盛りにされた籠が乗っかっていた。
ホラーはこたつの中に潜り込みながら指を一つパチンと鳴らす。
まるで手品ように、ちゃぶ台の上に湯呑みと急須が現れた。
「あ~~やはりこたつは極楽だ。
人類が発明した中ではピカイチだね!」
ずずず~~と音を立てながら湯呑みをすする。
そのミスマッチな光景に俺は頭が痛くなった。
まるで思考が追いついていかない。
「・・・お前、一体何を企んでいる?」
「んー?企むって何を?」
その間の抜けた声に戦意が一気にそがれ、魔戒剣を納める。
ホラーだけでなくそんな俺の姿にもやきもきしたのか、零が捲し立てるようにヤツに詰め寄った。
「だから!俺達を夢の中に閉じ込めて・・・!」
「だから観察だよ。
証拠にまだ誰も殺してないし、ワタシももう飽きちゃったから魔界に帰るところさ。」
「あ・・・飽きただと?」
「そ。
よくよく観察させてもらって、もう充分。
今の魔戒騎士達ではお話にならないと分かった。
だからもう帰るの。」
「なんだと・・・!」
「そう熱くなりなさんな、お若いの。
少なくとも君達はまだ冷静に話ができる、そう思ったからこそこうしてワタシは君達と対話する努力をしているんじゃないか。」
「ホラーが何を言っている!?
対話?努力?
ふざけるのもいい加減にしろ!」
「話し合いで戦いを避けられるならそれに越したことはないだろう?
対話という手段があるのに、そうやって武力を振りかざすのはまさしく下等で野蛮なサルではないのかね?」
「このっ・・・!」
このままでは埒があかないと判断し、零を制してヤツの対面に坐した。
「・・・御託はいい。アンタの要求はなんだ?
それとも世間話をするためだけに俺達を?」
「良かった。君は彼よりも話が分かるようだ。
単刀直入に言おう。
内輪揉めをしていていいのかい?黄金騎士。」
「・・・!」
「ワタシは警告しにきたのだよ。
我々ホラーは君たちのアイデンティティのために絶対悪であり続けてきた。
魔戒騎士の正当性を証明するためにね。
だが、もはや我々だけでは君達の虚栄心を満たすには不足らしい。
もっと巨大で、もっと邪悪な敵がいなければ満足できないほどに。」
「違う・・!」
「そうかね?
ではなぜ、暗躍する魔戒騎士や法師がいるんだ?
なぜ騎士や法師同士で殺し合っている?
騎士どもを突き動かしているのは薄っぺらな正義感と惰性だ。
法師にはそんな騎士に嫉妬と反目が渦巻いている。」
「ホラーが人間を食らい、騎士が法師と協力しホラーを狩る。
これはルール(規律)だ。
そしてルールは断固として守られるべきだ。
均衡が破られれば、必ず双方に大きな被害を出す。
我々にとっても君達にとっても、まるでメリットが無い。
早急に内部問題を収拾したまえ。」
「お、お前が言いたかったことはそんなことなのか・・・!?
そんなことを言うためだけに!?」
零はエルムの言葉に明らかに動揺していた。
まるで信じられないものを見たかのように体を戦慄かせている。
「そんなことって君、これは非常に大事なことだよ。
君達にとっちゃホラーなんてどいつも同じだろうが、我々にもちゃんとルールや理性はある。
だから魔戒騎士に協力するホラーだっているんだろう?
君の相棒のようにね。」
「ぐ・・・」
何も言い返せないのか零は口ごもって項垂れた。
まさかホラーに理性的に論破されるなんて予想だにしていなかっただろう。
俺だってこんなところで正座してホラーに説教を受けているなんて信じがたい。
「下っ端はいいんだよ。
ただ食欲の赴くまま人間を襲っていれば。
だがワタシのように歳をくった古株はそうはいかない。
百年先、千年先、子孫たちを食わしていかなきゃいけないんだ。
そのために騎士との話し合いが必要ならワタシはそうする。
現実やルールがしっかりしてこそ、夢を見る楽しみもあるというものだ。」
《結局、妄想大好きな自分のためじゃないか。》
左の中指からザルバの揶揄する声が届いたが、相手は飄々としたものだ。
「年を重ねると、理想を見つけるのがより難しくなる。
だが本当は、年を重ねた時こそ必要なのだよ。
君、ヘミングウェイを知ってるかね?
読みたまえよ。」
《・・・・。》
「なぜその話を俺達に?」
「うん、そうだな・・・。
下っ端の騎士を襲っていれば、いずれは黄金騎士の誰かが出てくる。
強いて言うなら君が黄金騎士だから話すに値すると思った。」
「エルム、最後に一つ訊きたい。
・・・ホラーがこの世からいなくなることは決してないのか?
そうすれば騎士も法師も無い。
互いに争うこともなくなるはずだ。」
「鋼牙・・・」
「ホラーがこの世から消え去ること。
それは君達魔戒騎士が滅ぶことを意味している。
ホラーという共通の敵が無くなった時、その時何が起こるのか。
有り余る力の矛先をどこに向けるのか。
君はもう気が付いているはずだ。」
返す言葉が見つからなかった。
ただ奥歯を噛みしめた。
・・・くやしかった。
ただひたすらに悔しかった。
ホラーの言葉は真理をついている。
何も言い返せない自分があまりにも未熟に思えた。
「君達は人類がホラーの脅威に脅かされることのない世界。
そんな理想を掲げて戦っている。」
「でもね、叶ってしまう理想・・・人はそれを夢とは言わない。
“現実”というんだよ。
叶えることができない理想を、夢というんだ。」
「分かるかい?そんなものは幻想だ。
指を一つ鳴らせばすべて消えてしまうんだよ。」
エルムがパチンと指を鳴らすと、それまであった畳やこたつは一瞬にして煙のように消えてしまった。
零は拳を握りしめて噛みつくようにホラーに訊ねる。
「じゃあ、俺達は何のために!?
何のために静香は・・・・」
自分達がこれまで捧げてきた犠牲まで否定されている気がしたんだろう。
全てに意味がないのなら、何のために・・・。
誰だってそう思う。
自分の人生に意味があった、大切な誰かの死に意味があったと思いたい。
でも結局その答えは自分で見つけるしかないんだ。
「・・・質問は一つと言う約束だ。
ワタシはそろそろ魔界に還るとするよ。
さぁ、目覚めの時間だ。」
エルムが指をパチンと鳴らし、目の前が暗転した。
―――・・・
ゆっくりと瞼を開けると、朝の光が差し込む自分の部屋にいた。
隣に穏やかな寝息を立てるカオルを見つけて、ようやく夢から醒めた実感を得る。
鳥のさえずりを聞きながら、少しの間ぼんやりとしていた。
零がソファベッドから上半身を起こし、頭を抱えながら呟く。
「・・・ひどい夢だった。
俺達、負けたんだよな・・・。」
「ああ。
負けた・・・。」
「他の騎士達も目を醒ましたかな?」
「そうだろうな。」
「あーもー、なんか頭が痛い。
全然寝た気がしないし。
帰って寝なおそう。」
「番犬所に報告・・・」
「ヤだよ。」
「お前の管轄だろう。」
「行きますよ・・・行けばいいんだろ!
正直、荷が重くて逃げ出したいんだけど。」
そんなことをぶつくさ言い続ける零を玄関まで見送る。
今は頭が混乱していて、冷静にこれからのことを話し合える訳もない。
「なぁ、鋼牙・・・アイツの言ってたこと。
騎士と法師が殺し合ってるって。
真実だと思うか?」
「・・・・。
“ギャノンの骸”を知っているか?」
「ギャノン?太古の遺物だろ?
それとこれと一体何の関係が・・・」
「噂で聞いた程度だが、探索に行った騎士がことごとく殺されたらしい。
当時の調べでは犯人は暗黒騎士キバということで落ち着いたが、どうも引っかかる・・・。
・・・元老院の内部を少し探ってみようと思う。」
「なんかまた厄介事が起こりそうだな・・・。
何かわかったら連絡くれよ。」
「ああ、お前も用心しろ。」
遠ざかっていく零の背中を見送りながら、まるで2日酔いの朝のような気分だった。
ゴンザもまだ眠っているし、起きるには早すぎる。
二度寝する気分にはとてもなれなかったが、とりあえず自室に戻ることにした。
ベッドの縁に腰かけると、スプリングの音に気付いたカオルが薄っすらと目を開けた。
「悪い、起こした。」
咄嗟に謝って頬を撫でると、カオルは一度ゆっくり瞬きするとニコリと笑う。
「よかったぁ~、こうが起きてるー・・・。
良い夢みれたー?」
ふわふわとはっきりしない声に苦笑いが浮かんだ。
「それなら良かったんだがな。
・・・俺は、お前の夢を見たことがないんだ。」
なんで出てきてくれないんだ、と拗ねた口調で告げながら額を寄せる。
すると寝ぼけ半分ながらカオルは俺の頭を撫でた。
それはとても心地良く暖かい・・・。
ぼんやりとした頭が再び眠りに落ちそうになった。
「カオル・・・これは現実なのか?
お前が俺のそばに居る。
本当は全部、都合の良い夢なんじゃないか?」
こんな、夢のように幸せな現実が本当なのだろうか。
眠るといつもカオルはいなくて、もっともらしい現実が待っている。
俺はお前に出会う事も無く、今も復讐にとらわれてただひたすらホラーを狩り続ける毎日を送っているんじゃないだろうか。
夢の方がよほどリアルに思えた。
「だいじょーぶだよ。
私はちゃんとここにいるよ。
鋼牙のそばにいるよ・・・。」
『叶えることができない理想を、夢と言うんだ。
指を鳴らせばすべて消えてしまう。』
頭の中で、まるで警鐘のようにホラーの声が響く。
カオルの肩に回した指を、俺はひとつパチンと鳴らした。
End
自分のこれまでの流れとMAKAISENKIとに少しくらいは整合性を持たせたくて間みたいな話を書きました(;´Д`)汗
正直、かけ離れすぎてドッキングは難しいし、もう完全に作品として分けて創作していくようになるんですけれど、ある程度自分の中で踏ん切りをつけたかったというか、次に向かうために自分なりの納得が必要だったので今回のお話を書きました。
メインは鋼牙達の心理をえぐりたかった、っていう非常にドSな動機でしたがww笑
ホラー・エルムさんの性格は当初からこういう方でした。
ザルバやシルヴァよりずっと長く生きているホラーで、無為を楽しむことも知っている、そういうホラーがいてもいいんじゃないか?と思いまして。
零や鋼牙が見た酷い夢は、決して彼が見せてる訳ではなかったんです。
だからこそ両者の心理状態が強く影響していた、という感じですね。
ずっと書きたかったモチーフだったので、個人的には満足いたしておりますw
UPが遅延しまくって本当にすいませんでした!
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
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Comments
お気に入り決定!
零くんの夢もゾクゾクしましたが、鋼牙の夢もまたハラハラさせていただきました!
ところどころで、チクリチクリと痛みを感じる、こういうお話はとっても「好み」でございます。
クリスマスの幻想的なテンプレートを背景に目のくらむような夢のお話がとっても素敵でした!
一二三様ワールドを堪能させていただきましたぁ~
ありがとうございます!
ところどころで、チクリチクリと痛みを感じる、こういうお話はとっても「好み」でございます。
クリスマスの幻想的なテンプレートを背景に目のくらむような夢のお話がとっても素敵でした!
一二三様ワールドを堪能させていただきましたぁ~
ありがとうございます!
Re:お気に入り決定!
selfish様、メッセージ誠にありがとうございます!
貴重なご意見本当に助かります。
個人的には色々書きたいことを詰め込み過ぎちゃって主題がぼやけてしまったかな、と反省。。。
難しいですね(;´Д`)書くって。
最後の指を鳴らした時、カオルは消えたのか消えなかったのか。
皆様のご想像にお任せします、とだけww
クリスマスも現在進行形で頑張ってます!きっと、いや絶対;これよりは明るいラヴい話になるかと!
またぜひ遊びに来てくださいね~v
貴重なご意見本当に助かります。
個人的には色々書きたいことを詰め込み過ぎちゃって主題がぼやけてしまったかな、と反省。。。
難しいですね(;´Д`)書くって。
最後の指を鳴らした時、カオルは消えたのか消えなかったのか。
皆様のご想像にお任せします、とだけww
クリスマスも現在進行形で頑張ってます!きっと、いや絶対;これよりは明るいラヴい話になるかと!
またぜひ遊びに来てくださいね~v
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