Posted by 一二三 - 2012.01.22,Sun
夜分遅くに失礼します、一二三です(;´Д`)
ちょいと風邪を引きましたww
とりあえず小説だけUPさせてもらって、メールの返信等は明日まとめてさせていただきますね;
ほんとごめんなさい!
今回は久しぶりに、UP途中だった長編小説 「Gott ist tot, Gott bleibt tot.」の6話目をUPさせていただきます。
まだ読んだことのない方は2011年索引ページのリンクから続けてどうぞ。
「つづき」クリックで 本編 『Gott ist tot, Gott bleibt tot. Ⅵ.』 へ行けます。
ちょいと風邪を引きましたww
とりあえず小説だけUPさせてもらって、メールの返信等は明日まとめてさせていただきますね;
ほんとごめんなさい!
今回は久しぶりに、UP途中だった長編小説 「Gott ist tot, Gott bleibt tot.」の6話目をUPさせていただきます。
まだ読んだことのない方は2011年索引ページのリンクから続けてどうぞ。
「つづき」クリックで 本編 『Gott ist tot, Gott bleibt tot. Ⅵ.』 へ行けます。
彼が娘に向ける優しい笑顔。
私はその笑顔が、本当に大好きでした。
私にとって何よりも大切な宝物でした。
その笑顔が守れるなら、ただのホラーに堕ちても良かったのです。
足を引きずりながら芽衣子の部屋をめざす鋼牙の肩をカオルが支える。
紅く染まったコートがじっとりと自分の身体をも生温く濡らしていくのを、カオルは苦い思いで感じた。
じわりと滲む視界。
「駄目だ、泣いてる場合じゃない」と頭を振って自分を諌めながら、暗い廊下を足早に歩いた。
早く・・・早くしないと、彼が追ってくる。
つまづきそうになる鋼牙の身体を押して、暗闇と恐怖に凍てつきそうな心を奮い立たせた。
暗い廊下の先に芽衣子ちゃんの部屋だとおぼしき白い扉が見えて、カオルはようやく明るい声を上げる。
「鋼牙!きっとあそこだよ!」
「っ・・・はぁ、・・・ああ、ザルバの気配を、感じる・・。」
荒い息を繰り返しながら立っているのもやっと、という状況の鋼牙。
一刻も早く休ませなきゃ・・・。
「鋼牙、出血はどう・・!?」
「・・・・。」
鋼牙はずっと首筋に当てていた右手を離す。
その手はべっとりと真っ赤に染まっていて、カオルは一瞬見ただけで眩暈を起こしそうになった。
「傷はもうあらかた塞がっている・・・。
魔戒騎士は普通の人間より傷の回復が早い、心配はいらない。」
そう告げる鋼牙の顔面は蒼白で、とても安心など出来るはずがない。
それでも今、この状況では鋼牙の言葉を信じるほかカオルには術がなかった。
例え無理をしていると分かっていても、戦わなければここから生きては帰れない。
「早くザルバと魔戒剣を・・・!」
ぐっと前を見据える彼の瞳には一点の曇りもない。
これまで何度も死線を潜り抜けてきた鋼牙だからこそ持っている強さ。
その強さが、カオルにも勇気をくれる。
「うん!行こう・・・!」
扉を開けると、そこに広がっていた景色は恐ろしく平凡な・・・愛らしい薄いピンクの家具で飾られた子供部屋だった。
おびただしいほどのおもちゃの数々は、あの娘がどれほど愛されているのかを物語っている。
まるでラプンツェルの窓を彷彿とさせる小窓に、薄く月明かりが差し込んでいた。
その月明かりの先に、テーブルに無造作に転がされているザルバと朱塗りの魔戒剣を見つける。
「ザルバ!」
鋼牙の呼びかけにカチリと音を立てて瞬きした魔導輪は、いつもよりやや硬い口調でそれでいて彼らしい言葉を発する。
《よぉ・・・相棒。
ずいぶん弱ってるな。》
ザルバなりに心配しているのだろう。
ようやく頼れる存在を取り戻した安心感で、カオルはほっと息をつく。
鋼牙はザルバを手に取ると、定位置である左手の中指に彼を嵌め、拳を向けて見つめた。
《あの親子にこっぴどくやられたもんだ。
だから俺様は最初から問答なんて無駄だと言ったんだ。》
・・・そうね、話が通じる相手なんかじゃなかった。
ザルバの言葉に、カオルは自分の判断が甘かったことを再び痛感する。
鋼牙をこんなことに巻き込んだ原因は自分にあるのだから、自責の念はぬぐえない。
「・・・説教なら後でいくらでも聞く。
今は彼らを止めることが先決だ。」
《その通りだ。》
鋼牙は朱塗りの鞘をぎゅっと掴んだ。
これまで多くのホラーを斬ってきた剣。
そしてこれから・・・あの親子を斬る剣。
カオルの頭にぐるぐると芽衣子と占い師の顏が浮かぶ。
思い出すのは、辛く悲しい表情ばかりだ。
「芽衣子ちゃん・・・。」
―――・・・
血なまぐさい部屋で佇むのは父と娘。
車椅子の娘にまっすぐに対峙した父親は、怒りも悲しみもなく語りかけた。
「なぜ、今なんだ・・・芽衣子。」
引き返す機会ならこれまでにいくらでもあった。
それなのに、なぜあと一歩というところまで来て、芽衣子が彼らを逃がすような真似をするのか、占い師にはわからない。
「芽衣子・・・あの人達食べたくない。」
俯いて答えた芽衣子に、占い師は見下ろしながら尋ねた。
「・・・他の人達なら良かったのかい?」
「・・・・。」
芽依子は答えない。
一体あの二人の何が、芽衣子の琴線に触れたのだろう。
これまで獲物になってきた者達となにが違うというのか。
「お前が望むならそうしよう。
だが、冴島鋼牙は私達を見逃しはしないだろう。
彼は私達を必ず殺しにくる。
だからその前に殺らねばならない。」
弱っている今こそ勝機だと、占い師は瞳の奥をぎらつかせた。
「・・・どうして?
お兄ちゃんたちなら助けてくれるかも・・・」
「芽衣子、・・・誰も助けてなんてくれないよ。
ずっとそうだっただろう?
お医者様も、周りの人も・・・皆お前を助けてはくれなかった。
同情や憐みはしても、皆お前から目を背けた。」
「“助けになります”、なんて善人ぶって・・・上から見下して物を言う。
そういう奴らが、“障害者だから”と私達を差別した。
薄っぺらい親切心の奥に潜むエゴなど私には透けて見える。」
はっきりと人間に嫌悪感をおぼえて口にする。
「そんなくだらない生き物をどうして信じられるんだ・・・。」
苦渋の表情を浮かべた父に、娘はただ呼びかけるしかなかった。
「お父さん・・・。」
涙に濡れた芽衣子の頬を、占い師は屈んで優しく両手で包み込むように拭う。
「芽衣子、私は必ずお前の病気を治してみせる。
生きてくれ・・・・たとえホラーでもいい。
それだけがただ私の願いなんだ。
邪魔する者は全てお父さんが何とかするから・・・!」
車椅子の娘を、父親はぎゅっと抱きしめた。
「お父さ・・ん・・・でも、もう・・芽衣子・・・」
「芽衣子、忘れないでくれ。
多くの親がそうであるように・・・・私もまたお前を愛している。」
来るべき別れが近いことを、父も娘も知っている。
空腹にあえぐホラーの本能が激しく少女の理性を突き崩そうとしている。
「お父さん、おとうさん、おとうさん・・・!」
父親の肩口に顔をうずめて、少女は車椅子の腕置きを掴んだ。
消えていく自分を掴みとるように、ぎゅっと。
立ち上がれなくなってからずっと自分の足の代わりを果たしてくれたそれは、手によく馴染む。
もし掴めたのがお父さんの手だったなら、その手を振りほどくことが出来たのに・・・。
お父さん。
芽依子の話を聞いて。
どうして聞いてくれないの?
どうして分かってくれないの?
私をホラーにしたのは誰?
逃げられなくしたのは誰?
縛り付けたのは誰?
お父さん、あなたの愛なしでは生きていけない私にしたのは誰?
どうして愛する娘をホラーにできたの?
どうして私の病気を受け入れてくれなかったの?
どうしてもっと強く生きてくれなかったの?
なぜ前を向いて生きてくれなかったの?
「お父さん・・・・!」
嘆きと苦しみが弾けだし、心を覆いつくす陰が手を伸ばした。
壁が迫ってくるような圧迫感を感じて眩暈がする。
私が私でいられた理由も、お父さん・・・あなたは気が付かないでしょう。
私に憑依したホラーが何者だったのか。
いつもそばに居た『友』がいつからかいなくなっていたことも。
呼吸筋が委縮して死にかけた私を憑依することで救い、それから2年もの時間をくれたことも。
お父さんが与える生き血をすすりながら、必死に本能を抑え込んでくれたことも。
ずっといっしょに居てくれて、・・・ありがとう。
メキメキと音を立てて崩れていく身体が、赤い車椅子と一緒くたになって変容していく。
浮かび上がる少女の体から車輪が飛び出し、蜘蛛のような八つ脚を四方に張り巡らせた。
天使とも悪魔ともとれる黒い翼が羽ばたいて止まっていた部屋の空気を流動させる。
白く濁る瞳をたたえながら、ホラーはその細い二本足を床について立って見せた。
「芽衣子・・・!
また立てるなんて・・・」
それは人間の姿とは程遠かったが、父親は感動に打ち震えて涙を流す。
また娘が立てた。
ずっと夢見てきたことがようやく叶った。
やっと。
娘との約束を果たすことが出来る。
「芽衣子・・・公園に行こう。」
―――・・・
《―!鋼牙っ!
急げ、ホラーの邪気が強くなった・・!》
「あぁ・・・俺も感じた・・・。」
鋼牙はザルバの警告に奥歯を噛みしめると、無理やりに体を動かした。
よろけながら前進しようとする鋼牙を、カオルは慌てて引き留める。
「待って!;
そんな身体じゃ無理よ!
戦えるわけないじゃない・・!」
「カオル・・・。」
鋼牙は胸に当てられたカオルの掌を握りこむと、ゆっくりと自分から引きはがした。
握った手をそのままに、言い聞かせるように訴える。
鋼牙の一言一言が、まるで浸み込むようにカオルに届いていく。
「ここからは俺一人で行く。
お前はこの館から出るんだ。
何が起こっても、何が聞こえても、後ろを振り返らずに走れ・・・。」
「なに・・言ってるの?
嫌・・・やだよ!
いやっ!!」
鋼牙に握られた手と反対の手で、真っ赤に染まった彼の掌を包み込む。
そこにすがるような気持ちで額を当てた。
「信じるって言ってくれたよね?
私の信じたものを、信じてくれるって言ってくれたよね!?
だったら私も一緒に連れて行って!」
「しかし・・・!」
「危ないことも知ってる!
鋼牙が何をしようとしているのかも、その剣で何をするのかも知ってる!」
芽衣子ちゃんを、殺すんでしょう?
カオルの瞳から逃げるように、鋼牙は視線を逸らした。
「・・・許してくれとは言わない。」
鋼牙は魔戒騎士として、守りしものとして、ホラー化した芽衣子ちゃんを斬る気だ。
でもそんなことさせられない。
鋼牙ひとりに背負わせたりしない。
「・・・うん、許さない。
だから止める!
芽衣子ちゃんを斬らせたりしない!!ぜったいに・・・!
私が鋼牙を止めてみせる。
ホラーは斬る、それが鋼牙の生きる世界なら・・・私がそれを変えてみせる!」
確かに占い師さん達は間違ったことをした。
本当にとても重い罪を犯した。
愛する人を生かすために多くの人を犠牲にした。
でも・・・
「カ・・・オル・・・。」
「鋼牙・・・あなたは “あの日”私を見捨てなかった・・・!」
鋼牙の腕が私の手の中でビクリと揺れた。
「ホラーの返り血を浴びた私を、・・・斬らなかった。
最初は餌のつもりだったからかもしれない・・・でもあなたは私を助けてくれた。
お願い、あの人達のことも見捨てないで・・・!」
自分が無茶なことを言っていると分かってる。
卓君や多くの人を傷つけたことは、私だって許せない。
罰を受けるのは当然だと思う。
でも、あなただけは見捨てたりしないで。
「俺は・・・“守りしもの”としての使命を果たす。
安心しろ・・・俺を信じろ、と言った言葉に嘘はない。
最期まで、あの子を一人にはさせない。」
「鋼牙・・・・。」
鋼牙の指先が優しく瞼のしずくを払う。
「私も、覚悟を決める。
絶対・・・鋼牙を一人にはさせないから。」
私は鋼牙の身体を支えながら、占い師さんと芽衣子ちゃんのいる場所を目指した。
今度こそ、二人を救うために。
これも残すところあとわずかとなりました;
あと少しお付き合いくだされば幸いです。
私はその笑顔が、本当に大好きでした。
私にとって何よりも大切な宝物でした。
その笑顔が守れるなら、ただのホラーに堕ちても良かったのです。
『Gott ist tot, Gott bleibt tot. Ⅵ.』
足を引きずりながら芽衣子の部屋をめざす鋼牙の肩をカオルが支える。
紅く染まったコートがじっとりと自分の身体をも生温く濡らしていくのを、カオルは苦い思いで感じた。
じわりと滲む視界。
「駄目だ、泣いてる場合じゃない」と頭を振って自分を諌めながら、暗い廊下を足早に歩いた。
早く・・・早くしないと、彼が追ってくる。
つまづきそうになる鋼牙の身体を押して、暗闇と恐怖に凍てつきそうな心を奮い立たせた。
暗い廊下の先に芽衣子ちゃんの部屋だとおぼしき白い扉が見えて、カオルはようやく明るい声を上げる。
「鋼牙!きっとあそこだよ!」
「っ・・・はぁ、・・・ああ、ザルバの気配を、感じる・・。」
荒い息を繰り返しながら立っているのもやっと、という状況の鋼牙。
一刻も早く休ませなきゃ・・・。
「鋼牙、出血はどう・・!?」
「・・・・。」
鋼牙はずっと首筋に当てていた右手を離す。
その手はべっとりと真っ赤に染まっていて、カオルは一瞬見ただけで眩暈を起こしそうになった。
「傷はもうあらかた塞がっている・・・。
魔戒騎士は普通の人間より傷の回復が早い、心配はいらない。」
そう告げる鋼牙の顔面は蒼白で、とても安心など出来るはずがない。
それでも今、この状況では鋼牙の言葉を信じるほかカオルには術がなかった。
例え無理をしていると分かっていても、戦わなければここから生きては帰れない。
「早くザルバと魔戒剣を・・・!」
ぐっと前を見据える彼の瞳には一点の曇りもない。
これまで何度も死線を潜り抜けてきた鋼牙だからこそ持っている強さ。
その強さが、カオルにも勇気をくれる。
「うん!行こう・・・!」
扉を開けると、そこに広がっていた景色は恐ろしく平凡な・・・愛らしい薄いピンクの家具で飾られた子供部屋だった。
おびただしいほどのおもちゃの数々は、あの娘がどれほど愛されているのかを物語っている。
まるでラプンツェルの窓を彷彿とさせる小窓に、薄く月明かりが差し込んでいた。
その月明かりの先に、テーブルに無造作に転がされているザルバと朱塗りの魔戒剣を見つける。
「ザルバ!」
鋼牙の呼びかけにカチリと音を立てて瞬きした魔導輪は、いつもよりやや硬い口調でそれでいて彼らしい言葉を発する。
《よぉ・・・相棒。
ずいぶん弱ってるな。》
ザルバなりに心配しているのだろう。
ようやく頼れる存在を取り戻した安心感で、カオルはほっと息をつく。
鋼牙はザルバを手に取ると、定位置である左手の中指に彼を嵌め、拳を向けて見つめた。
《あの親子にこっぴどくやられたもんだ。
だから俺様は最初から問答なんて無駄だと言ったんだ。》
・・・そうね、話が通じる相手なんかじゃなかった。
ザルバの言葉に、カオルは自分の判断が甘かったことを再び痛感する。
鋼牙をこんなことに巻き込んだ原因は自分にあるのだから、自責の念はぬぐえない。
「・・・説教なら後でいくらでも聞く。
今は彼らを止めることが先決だ。」
《その通りだ。》
鋼牙は朱塗りの鞘をぎゅっと掴んだ。
これまで多くのホラーを斬ってきた剣。
そしてこれから・・・あの親子を斬る剣。
カオルの頭にぐるぐると芽衣子と占い師の顏が浮かぶ。
思い出すのは、辛く悲しい表情ばかりだ。
「芽衣子ちゃん・・・。」
―――・・・
血なまぐさい部屋で佇むのは父と娘。
車椅子の娘にまっすぐに対峙した父親は、怒りも悲しみもなく語りかけた。
「なぜ、今なんだ・・・芽衣子。」
引き返す機会ならこれまでにいくらでもあった。
それなのに、なぜあと一歩というところまで来て、芽衣子が彼らを逃がすような真似をするのか、占い師にはわからない。
「芽衣子・・・あの人達食べたくない。」
俯いて答えた芽衣子に、占い師は見下ろしながら尋ねた。
「・・・他の人達なら良かったのかい?」
「・・・・。」
芽依子は答えない。
一体あの二人の何が、芽衣子の琴線に触れたのだろう。
これまで獲物になってきた者達となにが違うというのか。
「お前が望むならそうしよう。
だが、冴島鋼牙は私達を見逃しはしないだろう。
彼は私達を必ず殺しにくる。
だからその前に殺らねばならない。」
弱っている今こそ勝機だと、占い師は瞳の奥をぎらつかせた。
「・・・どうして?
お兄ちゃんたちなら助けてくれるかも・・・」
「芽衣子、・・・誰も助けてなんてくれないよ。
ずっとそうだっただろう?
お医者様も、周りの人も・・・皆お前を助けてはくれなかった。
同情や憐みはしても、皆お前から目を背けた。」
「“助けになります”、なんて善人ぶって・・・上から見下して物を言う。
そういう奴らが、“障害者だから”と私達を差別した。
薄っぺらい親切心の奥に潜むエゴなど私には透けて見える。」
はっきりと人間に嫌悪感をおぼえて口にする。
「そんなくだらない生き物をどうして信じられるんだ・・・。」
苦渋の表情を浮かべた父に、娘はただ呼びかけるしかなかった。
「お父さん・・・。」
涙に濡れた芽衣子の頬を、占い師は屈んで優しく両手で包み込むように拭う。
「芽衣子、私は必ずお前の病気を治してみせる。
生きてくれ・・・・たとえホラーでもいい。
それだけがただ私の願いなんだ。
邪魔する者は全てお父さんが何とかするから・・・!」
車椅子の娘を、父親はぎゅっと抱きしめた。
「お父さ・・ん・・・でも、もう・・芽衣子・・・」
「芽衣子、忘れないでくれ。
多くの親がそうであるように・・・・私もまたお前を愛している。」
来るべき別れが近いことを、父も娘も知っている。
空腹にあえぐホラーの本能が激しく少女の理性を突き崩そうとしている。
「お父さん、おとうさん、おとうさん・・・!」
父親の肩口に顔をうずめて、少女は車椅子の腕置きを掴んだ。
消えていく自分を掴みとるように、ぎゅっと。
立ち上がれなくなってからずっと自分の足の代わりを果たしてくれたそれは、手によく馴染む。
もし掴めたのがお父さんの手だったなら、その手を振りほどくことが出来たのに・・・。
お父さん。
芽依子の話を聞いて。
どうして聞いてくれないの?
どうして分かってくれないの?
私をホラーにしたのは誰?
逃げられなくしたのは誰?
縛り付けたのは誰?
お父さん、あなたの愛なしでは生きていけない私にしたのは誰?
どうして愛する娘をホラーにできたの?
どうして私の病気を受け入れてくれなかったの?
どうしてもっと強く生きてくれなかったの?
なぜ前を向いて生きてくれなかったの?
「お父さん・・・・!」
嘆きと苦しみが弾けだし、心を覆いつくす陰が手を伸ばした。
壁が迫ってくるような圧迫感を感じて眩暈がする。
私が私でいられた理由も、お父さん・・・あなたは気が付かないでしょう。
私に憑依したホラーが何者だったのか。
いつもそばに居た『友』がいつからかいなくなっていたことも。
呼吸筋が委縮して死にかけた私を憑依することで救い、それから2年もの時間をくれたことも。
お父さんが与える生き血をすすりながら、必死に本能を抑え込んでくれたことも。
ずっといっしょに居てくれて、・・・ありがとう。
メキメキと音を立てて崩れていく身体が、赤い車椅子と一緒くたになって変容していく。
浮かび上がる少女の体から車輪が飛び出し、蜘蛛のような八つ脚を四方に張り巡らせた。
天使とも悪魔ともとれる黒い翼が羽ばたいて止まっていた部屋の空気を流動させる。
白く濁る瞳をたたえながら、ホラーはその細い二本足を床について立って見せた。
「芽衣子・・・!
また立てるなんて・・・」
それは人間の姿とは程遠かったが、父親は感動に打ち震えて涙を流す。
また娘が立てた。
ずっと夢見てきたことがようやく叶った。
やっと。
娘との約束を果たすことが出来る。
「芽衣子・・・公園に行こう。」
―――・・・
《―!鋼牙っ!
急げ、ホラーの邪気が強くなった・・!》
「あぁ・・・俺も感じた・・・。」
鋼牙はザルバの警告に奥歯を噛みしめると、無理やりに体を動かした。
よろけながら前進しようとする鋼牙を、カオルは慌てて引き留める。
「待って!;
そんな身体じゃ無理よ!
戦えるわけないじゃない・・!」
「カオル・・・。」
鋼牙は胸に当てられたカオルの掌を握りこむと、ゆっくりと自分から引きはがした。
握った手をそのままに、言い聞かせるように訴える。
鋼牙の一言一言が、まるで浸み込むようにカオルに届いていく。
「ここからは俺一人で行く。
お前はこの館から出るんだ。
何が起こっても、何が聞こえても、後ろを振り返らずに走れ・・・。」
「なに・・言ってるの?
嫌・・・やだよ!
いやっ!!」
鋼牙に握られた手と反対の手で、真っ赤に染まった彼の掌を包み込む。
そこにすがるような気持ちで額を当てた。
「信じるって言ってくれたよね?
私の信じたものを、信じてくれるって言ってくれたよね!?
だったら私も一緒に連れて行って!」
「しかし・・・!」
「危ないことも知ってる!
鋼牙が何をしようとしているのかも、その剣で何をするのかも知ってる!」
芽衣子ちゃんを、殺すんでしょう?
カオルの瞳から逃げるように、鋼牙は視線を逸らした。
「・・・許してくれとは言わない。」
鋼牙は魔戒騎士として、守りしものとして、ホラー化した芽衣子ちゃんを斬る気だ。
でもそんなことさせられない。
鋼牙ひとりに背負わせたりしない。
「・・・うん、許さない。
だから止める!
芽衣子ちゃんを斬らせたりしない!!ぜったいに・・・!
私が鋼牙を止めてみせる。
ホラーは斬る、それが鋼牙の生きる世界なら・・・私がそれを変えてみせる!」
確かに占い師さん達は間違ったことをした。
本当にとても重い罪を犯した。
愛する人を生かすために多くの人を犠牲にした。
でも・・・
「カ・・・オル・・・。」
「鋼牙・・・あなたは “あの日”私を見捨てなかった・・・!」
鋼牙の腕が私の手の中でビクリと揺れた。
「ホラーの返り血を浴びた私を、・・・斬らなかった。
最初は餌のつもりだったからかもしれない・・・でもあなたは私を助けてくれた。
お願い、あの人達のことも見捨てないで・・・!」
自分が無茶なことを言っていると分かってる。
卓君や多くの人を傷つけたことは、私だって許せない。
罰を受けるのは当然だと思う。
でも、あなただけは見捨てたりしないで。
「俺は・・・“守りしもの”としての使命を果たす。
安心しろ・・・俺を信じろ、と言った言葉に嘘はない。
最期まで、あの子を一人にはさせない。」
「鋼牙・・・・。」
鋼牙の指先が優しく瞼のしずくを払う。
「私も、覚悟を決める。
絶対・・・鋼牙を一人にはさせないから。」
私は鋼牙の身体を支えながら、占い師さんと芽衣子ちゃんのいる場所を目指した。
今度こそ、二人を救うために。
これも残すところあとわずかとなりました;
あと少しお付き合いくだされば幸いです。
PR
Comments
龍鈴様、ご感想ありがとうございますv
拍手メッセージThanksです!
皆様の応援のおかげで、あと1話とエピローグを残すのみとなりましたw
ラストまでお付き合いいただければ幸いです。
次回は占い師と鋼牙の健闘に乞うご期待wφ(о´ω`о)
皆様の応援のおかげで、あと1話とエピローグを残すのみとなりましたw
ラストまでお付き合いいただければ幸いです。
次回は占い師と鋼牙の健闘に乞うご期待wφ(о´ω`о)
是空様も、体調お気を付け下さいませ!
拍手ありがとうございます~!
体調も気遣ってくださいまして、感謝ですv
今回の長編小説も最初のころはどうなるものかと思いましたがw楽しんで頂けているようでほっとしました(o´д人))゚
次回もお楽しみいただければ幸いですv
体調も気遣ってくださいまして、感謝ですv
今回の長編小説も最初のころはどうなるものかと思いましたがw楽しんで頂けているようでほっとしました(o´д人))゚
次回もお楽しみいただければ幸いですv
みゆ様、こんばんは!拍手ありがとうございます。
今回も拍手&メッセージいただけて、本当にうれしいです!
いつもありがとうございます☆
続きを楽しみにしていてくれて、すごい助かりますw
皆様に納得いただけるようなラストを迎えることが出来るよう頑張りますね!
次回もぜひ、お楽しみに☆
みゆ様もお体大事にしてくださいね!
いつもありがとうございます☆
続きを楽しみにしていてくれて、すごい助かりますw
皆様に納得いただけるようなラストを迎えることが出来るよう頑張りますね!
次回もぜひ、お楽しみに☆
みゆ様もお体大事にしてくださいね!
ちゃーみーママ様、一二三も胸がいっぱい・・・!!
拍手メッセージ、誠にありがとうございます!
カオルは鋼牙と出会って、やっぱりたくさん成長したと思うんですよね。
そういう成長を一二三なりに描けたら、と思っています。
TV版1期ラストとはまた違った、鋼牙とカオルの共闘を楽しみにしててくださいね!
あーん!一二三もちゃーみーママ様とお会いしたかった~~(>д<;)
メタルチャームコレクション、本当にありがとうございます!!
またきちんとメールでお礼させていただきますねv
カオルは鋼牙と出会って、やっぱりたくさん成長したと思うんですよね。
そういう成長を一二三なりに描けたら、と思っています。
TV版1期ラストとはまた違った、鋼牙とカオルの共闘を楽しみにしててくださいね!
あーん!一二三もちゃーみーママ様とお会いしたかった~~(>д<;)
メタルチャームコレクション、本当にありがとうございます!!
またきちんとメールでお礼させていただきますねv
Post a Comment
Calendar
New
(05/08)
(09/14)
(11/15)
(11/08)
(01/06)
Search
Counter
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
Powered by "Samurai Factory"