Posted by 一二三 - 2010.09.12,Sun
あいつに出会うまで、俺の世界はモノクロだった・・・
あの日、魔戒騎士だった父が死んでザルバを受け継いだ時、
俺の世界は一瞬でモノクロに変わった。
― モ ノ ク ロ ―
黒と白だけの世界に蠢くもの。
それだけが俺の目に映るすべての色だった。
ホラーを滅ぼす。
これだけが俺の目的であり、同時に存在意義だと確信して止まなかった。
既に日の光や、雨の音さえ麻痺して感じなくなってしまっていた。
そのことを疑問にすら感じることなく夜毎繰り返すホラー狩り。
・・・あの頃の俺はきっとひどい顔をしていたんだろう。
鏡に向かってなんと無しに思った。
ああ・・・朝日はこんなにまぶしかったのか・・・と当たり前のことを思い浮かべて、歯ブラシを洗面台に戻す。
一体何がどうして朝っぱらから感傷的になっているのか。
まったくくだらない。
多分、昨夜めずらしくしくじったのが原因だ。
もちろんホラーは仕留めたが、らしくもなく手傷を負った。
全くもって不可解だ。
ホラーに魂を売って既に食われたやつに、剣を向けるのをためらったなんて・・・・。
魔戒騎士失格ものだろう。
それなのに、ゴンザは心配しながらもどこか嬉しそうだったし、カオルにいたっては「それでいいのよ」と訳が分からない理屈を述べてきた。
洗面台に向かって重いため息をついた。
このままじゃ駄目だ・・・。
このままでは父の二の舞になりかねない。
カオルやゴンザを守りたいと思えばこそ、魔戒騎士としての己を見失ってはいけないのに・・・。
「きゃ!鋼牙!!
なに洗面台の前でつっ立ってんのよ!」
無粋な声がけたたましく背後から文句を垂れた。
「・・・・今出る。」
さっきまで考えていたことなど馬鹿らしくなってきて身を翻す。
そのまま横をすり抜けようとした俺の腕をカオルが不意に引っつかんだ。
「・・・なんだ・・。」
多少ぶっきらぼうに答えてカオルの背中を振り返る。
見上げたカオルの視線とぶつかってぎょっとした。
泣きそうな顔をして俺の腕をギュッと掴んでいる。
なんでそんな顔をしている?と聞きかけた俺の声をさえぎって、カオルがつぶやいた。
「眉間・・。」
何のことを言っているのか分からなくて、は・・・となる。
「眉間の皺・・・。
鏡越しに見た鋼牙・・・・泣きそうな顔してた・・・。」
・・・わからない。
それでなんでこいつが泣いているのか、まるでわからなかった。
うつむいた顔から涙が床にポツリと落ちるのをどうしたらいいのか分からずにただ見ていた。
「・・・鋼牙は、悲しくても泣けないの・・?」
ズッと鼻をすすりながらか細く尋ねるカオルの背中が震えていた。
そういえば、あの時もこうしてカオルは泣いていた。
俺がカオルをホラーの餌として使っていたことを知ったとき、あいつはただこうして泣いていた。
責めればいいのに、怒ればいいのに、憎めばいいのに・・・。
何も答えない俺に、カオルは嗚咽を上げだしてしまった。
もう泣かせたくなんてないのに、苦しめたくないのに、どうしてこいつは俺のために泣いてるんだ・・・?
「・・・・ごめん・・。」
自然にこぼれた言葉にカオルは驚いて顔を上げた。
「・・・泣くな・・・。」
「お前が苦しいときは、すぐにどこにだって駆けつけてやる。
お前が悲しいときは涙を拭ってやる。
お前が助けを求めるときはいつだってお前の側にいてやる。
だから・・・泣くな・・・。」
「・・・じゃあ、鋼牙が悲しいときはどうするの?」
まだ涙ぐんだ声でカオルが心配そうに言った。
「お前がいるから。
耐えられる。」
掌で涙を拭ってやると、途端に顔を赤らめた。
そしてまたすぐにさっきより泣き出して、今度は俺の腰に抱きついてきた。
・・・もうどうしたらいいかわからん・・・・。
出来る限り手は尽くしたがこいつは泣き止まない。
シャツがびしょびしょになるのはもう覚悟を決めた。
抱きとめるように肩に手を置いてやり、俺は窓の外に目を向けた。
差し込む光はどこまでも優しく、暖かい・・・。
こいつが居るだけで世界は一気に色を取り戻す。
目を閉じても、世界はもうモノクロじゃない・・・。
fin
―――――
『ひかり』の対となる鋼牙ver.です。
小西さんのかっこよさは異常。
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