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Posted by - 2024.04.20,Sat
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Posted by 一二三 - 2011.10.01,Sat
すいませ~~ん;

すっかりサイト放置です!一二三です☆

お返事必ずしますので、もう少し待っててくださいね・・・(;´д`)もうボロボロw


初めての予約UPなので、ちゃんとUPされてるか心配ですが、多分大丈夫だろう!;汗
画面真っ白だったらすいませんw

あと、いつの頃からか ↓ に広告が出るようになってます。
で、でかいなぁ・・;
嫌な感じがする方もおられると思います。
すいません、一二三有料契約する甲斐性なくて・・・・!!。゚(゚ノω`゚)゚。←暴露

「広告やだなぁ」という意見が増えてきましたら、サイト移転も視野にいれることにします。
遠慮なくお申し出くださいませ。

さて、今回は『Gott ist tot, Gott bleibt tot.』の続きをUPします。

お楽しみ頂ければ幸いですv


「つづき」クリックでどうぞ☆












  
夢が叶うのはとても素敵なこと。
 
でもその夢がひとつ叶う度に、手に抱えた多くの荷物を置いていかなければならない。
そうして私は、これまでたくさんの荷物を置いてきたけれど。
あの時、手放さなければ・・・と思うものが無いって言ったら嘘になる。
 
あの日、清算してしまったものへ。
 
 
 
Gott ist tot, Gott bleibt tot.  Ⅱ.
 
 
 
 
 
「おかえり、鋼牙!」
 
「鋼牙様、おかえりなさいませ。」
 
 
「ただいま。」
 
帰ってきた鋼牙をいつものように出迎える。
 
私にとって、一日の中で一番好きな瞬間だ。
 
“おかえり”って言うたびに、ああ・・ここは私の家なんだ、って思えるもの。
それに、“ただいま”って鋼牙が答えてくれるたび、ここは鋼牙が帰ってくる場所なんだ、って当たり前のことに感謝できるから。
 
 
「ねぇ、鋼牙!今夜はまだ指令書が来てないよ!」
 
弾む声で言うと、鋼牙はそうか、とほっと息を漏らした。
 
「もし、少し時間がとれるなら話したいことがあるんだけど・・・。」
 
期待を込めて見つめるけれど、家に帰ってきたというのに鋼牙はせわしない。
コートを脱いでゴンザさんに手渡しながら彼は答えてくれた。
 
「・・・悪いが、今夜は時間がとれそうにない・・・。」
 
そう言って眉間に皺を寄せながら、私を一瞥だけすると足早に鋼牙は居間へと消えていく。
 
そう・・・なんだ・・。
 
最近ずっとそうじゃない。
今日は、幼稚園に行ったのよ。
そこで卓くんっていう男の子に会ったの。
 
鋼牙なら・・・あの子を救えるかも・・・。
 
そんな私の言葉は喉の奥へ消えてしまった。
 
「・・・カオル様、お夕飯にいたしましょう。」
 
ゴンザさんが励ますように声をかけてくれる。
 
うん、分かってるの。
鋼牙が最近、すごく忙しいこともちゃんと分かってる。
魔戒騎士として、守りしものとして・・・皆を守るためにすごくすごく頑張ってることも知ってる。
 
行方不明者の記事を新聞で見ては顔をしかめてた鋼牙に、私も胸が痛かったもの。
 
一人でも多くの人を守りたい、・・・そう願っている彼を、現実は容易く裏切ってしまう。
 
 
私には鋼牙の無事を、勝利を祈ることしか出来ない。
 
負担になっちゃいけないのに、今日もまた馬鹿なこと聞いちゃった。
はぁ・・・暇なんて無いに決まってるのに。
 
自己嫌悪をおぼえて、消沈しながら食卓についた。
 
「・・・・。
 カオル、何も食事中に話をするな・・・とは言ってない。
 食べながらでいいなら聞く。」
 
一向に箸が進まない私を見かねて、鋼牙がため息交じりに言ってくれた。
 
・・・鋼牙・・!
 
そのたった一言で立ち直る自分は、相当ゲンキンかも。
予期せぬ光明が見えたことに興奮して、私は言葉がまとまらない内から矢継ぎ早に話し始める。
 
「あぁぁぁあのね!!鋼牙っ!
 今日、幼稚園で落書きがあって卓くんが黄金騎士を指差して・・・!!!」
 
「俺は落書きなんてしてない。」
 
「ちーがーうーのーー!;
 そうじゃなくて・・・!えーとえーと・・・!これ!」
 
私はバーンと食卓に『黒い炎と黄金の風』を広げる。
 
何事かと紙面を覗きこむ鋼牙の耳元で、私は喚きながら最後のページを開いた。
 
「今日、幼稚園で卓って名前の男の子に会ったの。
 その子、すごくショックなことがあったらしくて何も喋ってくれなくて。
 それでね、これが卓くんの描いた絵。
 私、どうしても気になっちゃって・・・。
 それに、この子絵本の黄金騎士を指差して、私に何か伝えようとしてた!」
 
伝わりにくい私の話を、鋼牙はただ黙って聞いてくれている。
 
「こんなこと鋼牙は言われても、はぁ?って思うかもしれないけど!
 でも、私にはすごくそれが・・・引っかかってて。
 卓くんが黄金騎士に助けを求めてるような・・・・!」
 
「・・・カオル。」
 
黙って聞いていた鋼牙が低い声で、私の話を遮った。
 
「この、卓という子に兄弟はいるか?」
 
「えっ?」
 
「最近、亡くなった兄がいるんじゃないか?」
 
えぇ??;なに突然・・。
 
「さ、さぁ・・・そこまでは聞けなかったけど。
 あ!でも身内に不幸があった、って園長先生が・・。
 でも鋼牙、なんでお兄ちゃんが死んだ、って思うの?」
 
食卓に広げられた数枚の画用紙を選んで鋼牙は指で指し示す。
 
「絵本じゃなくて・・・こっちの画用紙の絵を見ろ。
 多分、家族を描いたものだと思うが。」
 
「右から、父親と思しき人物・・・それから母親、頭に輪っかを乗せた少年、小さな少年。
 小さな少年は幼稚園のスモックを着ている。
 この子が卓だろう?
 なら、この頭に輪っかがある少年はおそらく兄だろうと思った。」
 
頭の輪っか・・・。
そっか・・・死んだ人につけるマークといえば輪っかだ。
 
「・・・あれ?」
 
「ああ、良く見ると父親にも輪っかがある。」
 
それはつまりお父さんもお兄ちゃんも亡くしてしまった、ということなのかな。
 
「卓くん・・・もうお母さんしかいないんだ・・・。」
 
脳裏に寂しげに一人お絵かきをする卓くんを思い起こした。
・・・このままにしておけない。
 
「・・・この絵、変だ。」
 
「え?何が?」
 
さっきとは別の絵を眺めている鋼牙にならって、私もその絵をよく見る。
 
「今、この子は母親と二人家族だろう?
 だがこっちの絵には三人目が描かれている。」
 
確かに、言われてみると奇妙だった。
その三人目の子は真っ黒いクレヨンで塗りつぶされている。
 
なんだろう、不気味で怖い・・・。
卓くんはこれをどんな気持ちで描いたんだろう。
 
あの子が何も喋らないのは、もしかしてこの黒い人物が関係してるんじゃ・・・。
 
鋼牙はじっとその絵を見つめて、何か考え込んでいる。
 
「・・・カオル。」
 
「え・・・あ、はい!」
 
鋼牙の真剣な横顔を、緊張して見ていた私は突然呼びかけられて驚いた。
 
「明日の昼間、幼稚園に案内してもらっていいか?
 この卓って子に会いたい。」
 
「う、うん!いいよ。」
 
明日も幼稚園に来てるかどうかわからないけど・・・。
 
でも鋼牙なら・・・・卓くんを救うことができるかもしれない。
私も鋼牙に救われたんだから。
 
 
その夜、鋼牙は夕食を済ますと早々にコートを羽織って朱塗りの鞘を携え、再び出掛けていった。
 
指令書は出ていなかったけど、気になることがあるのだろう。
一体いつ寝てるの?・・・、と心配に思うけれど。
でも、分かってるから・・・、鋼牙がなぜそんなに頑張るのか私は分かるから。
だから、私には鋼牙を止められない。
 
 
 
 
――・・・次の日
 
 
「あのー・・・;御月さん・・・。」
 
押しかけた私と鋼牙を見て園長先生は困った表情を浮かべている。
 
うん、ごめんなさい;
言いたいことは分かります。・・・ごもっともです。
 
「ごめんなさい、園長先生!
 昨日の今日で、ご迷惑だってわかってます!
 でも、卓くんを放っておけなくて・・・。
 おせっかいなのは百も承知ですっ!
 でもこのままじゃいけない、そう思うから・・・・!」
 
バタバタと必死に頭を下げた。
 
って・・ちょっと!;鋼牙も頭下げなさいよ!
隣で棒立ちしている鋼牙を肘で小突くと、ためらいがちに彼も頭を下げた。
 
「ふぅ・・・わかりました、御月さん。
 あなたの熱意が、卓くんにも伝わるかもしれない。
 でも、卓くんが嫌そうだったら・・・。」
 
園長先生は苦笑いを浮かべつつも、慈愛に満ちた瞳で許可してくれる。
良かった!園長先生の気が変わらないうちに早くしなきゃ。
 
「はい!わかっています。
 鋼牙っ、早く!」
 
「・・・・。」
 
なに、『ホントに入るの?』みたいな顔してるのよ!
入りづらそうな表情を浮かべている鋼牙を私は無理矢理引っ張りこむ。
 
 
卓くんは今日も、グラウンドで一人お絵かきをしていた。
一心不乱にクレヨンを動かし続けている。
 
外界を全て遮断しているような姿に、周囲の誰もがあの子を避けていた。
 
「・・・あの子が卓・・か?」
 
「うん、そう・・・。」
 
 
 
鋼牙はいつもと変わらない様子で卓くんに歩み寄る。
誰もが腫れ物にさわるみたいに体を硬くするのに、鋼牙はすごく自然体に見えた。
 
どうするんだろう・・・鋼牙。
 
卓くんがお絵かきをしている机に、彼は向かい合って座る。
 
 
「こんにちは、卓・・・。」
 
鋼牙の呼びかけに、卓くんは何も反応を返さない。
 
相手が鋼牙なら、何か話してくれるかも・・・と期待を抱いていた私は、薄くため息を漏らしてしまう。
 
でも鋼牙は気にしていない様子で机の上に乱雑に広げられた画用紙を一枚取りながら、卓くんにもう一度話しかけた。
 
「絵・・・上手だな。
 クレヨンってところがいい。
 どれもよく描けてる。
 これは、お父さんと・・お兄さん?」
 
絵の中の人物を指差して、鋼牙が卓くんに尋ねる。
でもやっぱり彼はクレヨンを動かし続けるだけで鋼牙が指差す絵も見ようとしない。
 
鋼牙が仏頂面だから怖がってるのかな?
 
 
「・・・・。
君が描いているのを見てると、俺も描きたくなったよ。
 一枚借りるぞ。」
 
そう言うと、鋼牙は画用紙に何か描き始めた。
 
卓くんと向かい合わせに、大人が・・・しかもあの鋼牙が落書きをするなんて。
不思議な光景に、私はただ見守るしかなかった。
 
 
描きながら、鋼牙はまた卓くんに話しかける。
 
「・・・俺やみんなの声は聞こえてるけど・・・話したくないんだろう?」
 
「無理に話さなくてもいい。
でももし、君が・・・話しても誰も信じてくれない。誰も助けてくれない、って思っているなら・・・。
 言葉にしなくてもいい。
 絵に描いて教えてくれ・・・。
 君の家族に起こったこと。
 君が見たもの。
 俺は信じる。
 君を信じるよ。」
 
鋼牙の語りかけに、卓くん何も答えず絵をかき続けている。
でも不思議とクレヨンの音があの子の言いたいことを奏でているような気がした。
 
「・・・さあ、描けたぞ。」
 
鋼牙は画用紙に描きあがった絵を、卓くんに見えるように向けて語りかける。
 
「ひどい絵だ・・・まるで才能がないな。
これが、俺の親父・・・執事のゴンザ。
 この良く分からない棒がおふくろで・・・、その隣が俺。
 そしてこれが、あのうるさくて生意気なお姉さん。」
 
「・・・・え″?」
 
「・・・・話すのが怖いのは良く分かる。
 俺も君と同じような頃があったから。
 でも、死んだ父の言葉で立ち直った。
 卓、君のお父さんだって今の君を見たらきっとこう言う。
 
 “強くなれ”って。」
 
 
鋼牙はまっすぐに卓くんを見つめて強く告げた。
 
鋼牙の、どこか喉につまったような声に私の胸は張り裂けそうな痛みを訴える。
 
 
初めて聞いた・・・。
お父さんを失ったときのことを思い出しているの?そうなの?鋼牙・・・。
 
私の目に涙が浮かんだ。
 
 
クレヨンを動かしていた手が止まり、卓くんの小さな拳が画用紙をぎゅっと握り締める。
俯いたまま、嗚咽も漏らさない卓くんの頭を慰めるように鋼牙が軽く撫でた。
 
「・・・すまない・・。」
 
鋼牙が立ち上がったその時、卓くんは鋼牙が書いた絵に手を伸ばした。
 
じっとそれを見つめた卓くんは、何か思い当たったようにたくさん描いた自分の絵の中から一枚を鋼牙に差し出す。
 
 
「・・・くれるのか?」
 
卓くんは頷くこともなく、俯いて画用紙を両手で差し出したままだ。
それはまるで何かを託しているように見えた。
 
「ありがとう・・・大事にする。」
 
鋼牙が絵を受け取ると、卓くんは走って教室の中に逃げていってしまう。
 
止めるのは、あの子を追い詰めることにしかならない気がして、私達はただその小さな背中を見送った。
 
 
「・・・鋼牙、卓くんはどんな絵を?」
 
「・・・“鐘塔”だ・・・。
 それに、“赤い車椅子”・・・“黒い人物”・・・これはスーツ?を着た男・・か。」
 
スーツ・・・?
それに赤い車椅子・・・。
鐘塔のような建物で・・・
 
 
「 !! 」
 
そんな・・!
 
思い出した・・・違う、ようやく理解した。
無意識のうちに『あの人』を除外していたけれど、もう否定できない。
 
卓くんを苦しめているものの正体は・・・。
 
頭からサアっと血の気が引くのを感じた。
 
うそ・・・信じられない。
確かめなきゃ・・・、確かめなきゃ・・・!
 
「カオル?
 どうした?
 気分でも悪いのか・・・?」
 
鋼牙の心配そうな声が遠くに聞こえる。
 
その時、私の頭の中は“あの人”と交わした会話や“あの人の娘”の笑顔でいっぱいだった。
 
“ありがとう・・・・”と言ったあの人の優しい声や微笑み。
心に重荷を抱えながらも、何とか笑顔を作って頑張っている姿。
 
鋼牙との距離をつめられない私を応援してくれた声。
 
全てがぐちゃぐちゃになって頭の中を真っ暗にしていく。
 
卓くんに何をしたの?
何をしているの?
 
 
「・・・カオル、何か思い当たるのか?」
 
「 ! ううん!知らない・・!;」
 
思わず飛び出た ウソ。
 
鋼牙に嘘をついた・・・。
 
うしろめたさで指先がかじかむように震える。
 
鋼牙は昨日、私の話を聞いて“卓くんに会いたい”と言った。
でも、心的外傷を負った少年に会いにくる理由は鋼牙には無いはず。
 
私が必死だったから一緒に来てくれた?
 
違う・・・。
鋼牙はきっと、卓くんと最近頻発している行方不明事件に関連性を見つけたからに違いないのだ。
 
それもただの行方不明事件じゃない。
ホラーが関わる事件。
 
思いがけない事実に足が痺れていく。
 
 
確かめなきゃ・・・“あの人”が鋼牙の追っている敵かどうか。
 
それでもしホラーだったら?
どうするの?鋼牙に言って、殺すの?
“あの人”と“あの人の娘”を?
 
 
 
「カオル!」
 
鋼牙の声で、ようやく思考を止め我に返る。
 
「こ・・・こうが・・・」
 
言わなきゃ。
言うの?
言っていいの?
でも言わないと。
 
私の唇は震えるだけで、何も言葉にできない。
 
もう泣き出したい・・・。
それで全て許されるなら、どんなにいいか。
 
「・・・顔色が悪い、家に帰るぞ。
 すみません、先生・・・お邪魔しました。」
 
園長先生に丁寧に頭を下げる鋼牙を私はただぼんやりと見つめる。
 
「い、いえ・・・御月さん、お大事に。」
 
 
崩れ落ちそうな体を鋼牙に支えてもらいながら家路についた。
 
体も心もバラバラになったような感覚で、足元がふらつく。
 
鋼牙は何も聞かない。
何も話さない。
 
気付いてるんだろうか?
私が何か知ってて黙っていること。
鋼牙に嘘をついたこと。
 
怖くてそれすらも尋ねることが出来ない。
 
私は“あの頃”から何も成長していない。
鋼牙から逃げ出したあの時から何も変わってない。
 
臆病者。
 
いつだって傷付くのが怖い。
自分が傷付かない方法をいつも探してる。
 
私はずるくて、汚い・・・
 
「ごめんね・・・鋼牙」
 
ねぇ、私のどこを好きになったの?
私はもう、私のどこが好きだったのか・・・自分じゃ分からなくなっちゃった。
 
 
「・・・話したくなければ何も話さなくていい。」
 
鋼牙は抑揚もなく告げる。
まるで断罪だと思った。
 
優しさは時に人を傷つけるって言うけれど、・・・本当だったのね。
 
「俺は何も聞かない。」
 
それは“優しさ”なんだろうけれど、
 
すごくひどいわ。
 
 
 
 
―――・・・
 
屋敷に戻ると、鋼牙は有無を言わせず私をベッドに寝かしつけた。
 
「私・・・眠くないよ。」
 
「いいや、眠いんだ。
 だから寝ていろ。」
 
たのむ・・・。
 
鋼牙の瞳が不安の色を浮かべて揺れる。
 
怖いの?鋼牙・・・。
私がここにいると安心出来るの?
 
「・・・うん・・・分かった。」
 
私の返事に、そっと息をついた鋼牙は前髪を撫でるようにかき上げると額にキスをおくった。
 
つきり、と胸に刺すような痛みを感じる。
優しくされるたびに辛い・・。
 
唇を額から離すと、鋼牙は立ち上がって部屋を出て行く。
ゆっくりと静かに閉じられた扉。
 
私と鋼牙を隔てるのは・・いつも扉なのね・・・。
私はやっと全身の力を抜くことができた。
 
ベッドに横になっていると、小さな音にも敏感になる。
ドアの向こうから鋼牙とゴンザさんの話声が聞こえてきて、じっと耳を澄ました。
 
 
―「ゴンザ。」
 
―「はい。」
 
―「カオルを頼む。
  今日は特に気にかけていてくれ。」
 
―「・・・かしこまりました。
  鋼牙様がお戻りになられるまで、何か・・・気分転換になるようなことをして、外出はお止めいたします。」
 
―「そうか・・・行ってくる。」
 
―「くれぐれも、お気をつけて。」
 
 
ごめんね・・・鋼牙、ゴンザさん・・・。
 
こんなにも心配してくれている二人を裏切るみたいで辛い。
でも私・・・やっぱり自分の目で確かめたい。
 
自分の心で見極めたい。
 
なぜ、卓くんは“あの人”の絵を描いたのか。
私が会った“あの人達”は・・悪人なのか。
本当に“あの人”が・・・卓くんや多くの人を苦しめているのかどうか。
 
鋼牙が出掛けたのを見計らうと、私はシーツにいくつも結び目をつくる。
カーテンも外して、シーツとくくりつけた。
ベッドの足に端を結び、グッと引っ張る。
 
うん、これならいけそう。
 
反対側を窓から外に垂らして、準備は整った。
後はここを下りるだけ。
 
“もうここには二度と戻って来られないかもしれない”
 
そんな不安が頭をよぎる。
 
今、私がしていることは鋼牙とゴンザさん、二人の信頼を裏切る行為だ。
 
 
「ごめん・・!ごめんなさい、鋼牙・・・ゴンザさん・・!」
 
鋼牙があの場所をつきとめる前に、行かなきゃ・・!
 
 
私は意を決すると、窓の縁に足を掛けてシーツをつたって、下まで降りた。
 
持ち物といえば携帯と財布だけ。
 
ぜったい、帰ってくるんだから・・・これで十分。
 
もう一度決意を固めると、私は冴島邸に背を向けて走った。
駅まで一気にかけて、電車に飛び乗り目的の場所に降り立つ。
駅構内からもあの“鐘塔”の建物が見えた。
 
ぐっと睨みつけて、再び駆け出す。
 
亜佐美と来たときの記憶がよみがえる道を走る。
あの時とは全く違う気持ちが溢れていた。
 
館の前に着いたけれど、いつかいた警備員は今日はいないみたい。
 
扉には『closed』と札がかけられていた。
 
ダメ元でノブを握って押すと、なぜか扉はギィと悲鳴を上げて開く。
 
中は暗い・・・。
そっと体を滑り込ませて扉を閉めた途端、パッと明かりがついた。
 
「・・・!」
 
「御月さん、いらっしゃい。
 待っていましたよ。」
 
私から2mほど距離をとった先に、“あの人”が立っていた。
いつもと同じ、穏やかな笑顔を浮かべて。
 
私はそれをはっきりとした不信感をもって見つめた。
 
 
鋼牙・・・ごめんね。
それでも私、この人を信じたいと思ってる。
 
 
 
―――・・・
 
 
日も落ちかけた中、窓が開けっぱなしのもぬけの殻になったカオルの部屋で鋼牙はただ腰に手を充ててくしゃくしゃになったシーツを睨んだ。
 
「鋼牙様!も、申し訳ありません!
 ご友人や美術館、思い当たるところを方々探したのですが、カオル様はどこにも・・・!;」
 
背後で粛々と頭を下げる執事の、悲しいかな薄い頭頂部がボサボサに乱れている。
 
「・・・いいんだ、ゴンザ。
 “追いかけっこ”にはもういい加減慣れた。
 お前の目をかいくぐるなんて、アイツもやるようになったな。」
 
「笑い事じゃございません!」
 
《おい、鋼牙・・・お前大丈夫か?
 いつもと違うぞ。》
 
ザルバの指摘は正確な的を得ていた。
 
いつも通りでなんていられない。
カオルがいなくなった。
 
胸に湧き上がるさまざまな葛藤を押さえつけようと内心は必死だった。
 
 
カオル・・・お前が、ここまでするってことは、
それは『どうしてもやりたいこと』なんだよな?
 
こうなることは分かってた。
 
“私も、鋼牙のこと・・・守るよ。
 鋼牙が辛いときとか、悲しいときは・・・私を呼んで。
 飛んでいくから・・・!“
 
“鋼牙が命懸けるっていうなら、私も命を賭けて一緒に居てあげる!”
 
 
嘘付け。
お前は俺のやっていることを全て受け入れられない。
 
俺は穢いことも、残酷なこともやってきた。
 
お前はそれを受け入れはしない。
 
 
でもそれでいい。
 
・・・俺がそうしてほしくないんだ。
 
俺を、『正義の味方』だとか『英雄』や『立派な人間』だなんて思ってほしくない。
 
剣を握って武力を行使することしか出来ない能無しだ。
 
俺は何の解決にもならないことを日々やっている。
ホラーは減らないし、陰我は蔓延し続けている。
 
だけど、カオル。
 
お前の絵は、お前がやっていることは俺とは違う。
決して無駄なんかじゃない。
 
お前の描く絵で、きっと誰かが救われている。
そうやって誰かの陰我を浄化しているんだ。
 
だから俺は・・・。


 
「・・・あの馬鹿・・・!」
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
To be continued・・・
Ⅲ.へ→ 

 
「あの馬鹿・・・!」
 
一二三の鋼牙が言った好きな台詞の中で、上位に食い込んでいるのはコイツです・・・!!w
 
個人的に、カオルは強い子だから間違ったことや納得できないことに真っ向から立ち向かっていく強さを持っている娘だと思っています。
それがどうしようもないことでも。相手が鋼牙でも。
自分が納得できるまでとことん向かっていくタイプ。(芸術家だからねw)
そしてそんなカオルだからこそ、鋼牙は好きなんだと。
 
堂々巡りをしているように思えても、ちゃんと進んでいる。
 

拍手[30回]

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Comments
ハルカ様、アドバイスありがとうございます!
拍手にて情報ありがとうございます。
返信遅くてすみません;

実はちょっと色々いじってみたのですが、一二三が馬鹿すぎてw無理でした・・・!!orz(落)

ごごごごめんなさい!汗
今のところ苦情らしきものは来ていないので;現状維持しようと思います。

ダメ一二三ですいませんっす!(o´д人))゚+.
Posted by 一二三(管理人)です - 2011.10.18,Tue 22:41:51 / Edit
aoi様、初めましてこんにちは☆
拍手から初めまして!
まずは返信のメールが遅くなりましたこと、大変失礼いたしました!
お詫び申し上げます。
そして、拍手ありがとうございます☆

次もいただけるよう頑張りますね!

では!ラストまで今後ともよろしくお付き合いくだされば幸いですv
Posted by 一二三(管理人)です - 2011.10.18,Tue 22:42:39 / Edit
なな様、一二三はまだまだ浅き人間です!
拍手本当にありがとうございます!
心の底から助かっていますv

本当はあっさりした文面で、しっかりしたメッセージをお伝えできればいいんですけれど;
そこまでの文章力がない自分は、こういう方法をとるしか無いのかな~;とか反省しきりです。

せめて鋼牙とカオルの姿をしっかりと描いていけるよう、これからも精進してまいります!
Posted by 一二三(管理人)です - 2011.10.18,Tue 22:43:14 / Edit
ちゃーみーママ様、嬉しいですv本当にありがとうございます。
拍手コメント感無量です・・・!
とってもありがたいです。

そうなんですよwこんな風につながっていくんですねww
本当に大変長いスパンで書いているのに、お付き合いくださりありがとうございます。

「カオルの意志、鋼牙の思い」そしてオリジナルキャラクターの占い師と娘。
責任もって誠心誠意、描かせていただきます。

どうぞ、次回もおたのしみに!
Posted by 一二三(管理人)です - 2011.10.18,Tue 22:44:03 / Edit
かる☆みん様、こちらでは初めまして!!
拍手とってもありがとうございます!!
あちらでも相変わらずお世話になっておりますv
いつも感謝ですよ~~!☆

ひとつでも多く、かる☆みん様のお心に届く作品が書けるようこれからも鋭意努力して参ります。
今後ともよろしくお願いしますね!
Posted by 一二三(管理人)です - 2011.10.18,Tue 22:44:35 / Edit
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