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Posted by - 2024.04.19,Fri
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Posted by 一二三 - 2011.08.14,Sun
皆様、お元気でしたでしょうか?

大変長らく、お待たせいたしました。

当サイトの管理人は 「実はどMではなくドSで、放置プレイの限りを尽くした」 と供述する一二三です;

「水曜日には時間出来る」とか嘘ぶっこいた上、音信不通状態に陥りまして、大変皆様にはご不快な思いをさせたかと思います。

にも関わらず、カウンターしっかり回してくださいまして・・・!!泣

もう感謝の言葉もない・・・!!感無量です!ありがとうございます!!

コレがソレで、アレがこーなってw自分のサイトを見る暇すらなかった一二三ですが!

誠心誠意、これからもがんばります!!!




さて、今回は、前回のお話!『The crooked house』の続きをUPするよーーーー!☆
待っててくれた方、ありがとう!

久々UPなのに「鋼カオ要素なくてヤダーー!」という方、ごめんね!!orz
次の話を待ってて下さい!

『The crooked house』は今回でおしまいですが、鋼牙の戦いは更に波乱に向かっていきます!

どうか、彼と一緒に、皆様も戦ってやってください!

鋼牙をよろしくおねがします!!



では☆「つづき」クリックで、 『The crooked house Ⅱ』へどうぞ!!

!読む前にご注意!

・ショッキングな描写を含みます
・暗いお話です
・鋼牙を敵として描いています






  
 
――・・・
 
「美夏!そんなに走ると危ないわよ~~!」
 
「だって見て、ママーー!
 私、来年一年生になるのよ!!
 パパ!ランドセルありがとう!!」
 
「おぅ!
 美夏!ボール遊びしようか。
 もうすぐ小学校に上がるんだから、父さんの剛速球だって受け止められるぞ~?」
 
 
「うんっ!」
 
 
「もう、あなたったら・・・。」
 
「ホラ、行くぞ!
 あ~あ、まだキャッチ出来ないか?」
 
「あっ!パパーーずるい!
 美夏、ボールとって来るね!」
 
 
「美夏!?
 道路に飛び出さないで!」
 
 
「クラクションが鳴ってるのが聞こえないのか!?美夏・・・!!」
 
 
 
「美夏ぁぁーーー!」
 
 
―――・・・
 
 
 
 
『The crooked house Ⅱ』 
 
 
 
 
 
 
 
背中にびっしょりと汗をかきながら、俺は必死に頭を働かそうとした。
 
今はっきりしていることは、この家から逃げ出す最大のチャンスを失ったということ。
 
 
少女の黒い瞳が父親である土井亮を射るように見つめている。
 
ぞぞぞ・・・と影に押しつぶされそうな感覚がした。
 
本能が鋭敏に危険を感じ取る。
 
ついさっきまで脅威の対象だった土井亮など今となっては可愛く思えた。
 
恐怖に慄いた男の心中は俺を含め他の誰も見ぬ点であろう。
 
 
基本的に、ごく普通の何の変哲もないはずの廊下が、不気味に暗かった。
 
少女が口にした残酷な言葉が俺の鼓膜に何度も響く。
 
 
冗談だ、と笑ってしまえればどんなにか気が楽だったか。
 
だが、家中に漂う腐敗臭と父親の表情がそれを許さなかった。
 
 
こいつら親子は、基本的に誘拐し殺した人間を食していた、っていうのか?
 
マンガや未開拓地じゃあるまいし・・・!
 
この先進国日本において、こんなことが信じられるか。
 
 
「も、もう駄目だ・・・!おしまいだ!
 こ、殺される!みんな殺されるぞ・・・!!」
 
土井亮が恐怖に口元を震わせながら言葉にする。
 
そんな目で見られても困る。
それに、身が危険なのはこっちだって同じだ。
 
と羽根沢は他人事のように思った。
 
「や、やるしかない・・・!」
 
瞳に狂気を灯らせて、土井亮はか細く呟く。
 
 
「お、おい!刑事さん!!
 アンタ拳銃持ってないのか!?」
 
土井亮ははっと気付いたように口にした。
 
「拳銃だと!?
 バカを言うな!
 基本的に日本の警察が常時携帯してるわけないだろ・・・!
 それに、持ってたとしてもお前には渡さん!」
 
 
「あいつには包丁は効かなかった・・・!」
 
 
土井亮から信じがたい言葉が飛び出た。
 
目の前がカッと赤くなるのを感じる。
 
「お前、自分の子供を・・・・!」
 
 
「あんな化け物、俺の美夏じゃないっ!!」
 
 
わぁぁーー!と絶叫にも似た大声を上げて、土井亮は娘の美香に飛び掛っていった。
 
 
 
 
―――・・・・
 
 
 
夫の怒鳴り声に、妻の紗江子は肩をびくりと揺らす。
 
 
「・・・・。
 随分と騒がしいですね、何か揉め事でも?」
 
道を聞きに来た白いコートの青年が、玄関口で眉をひそめて紗江子にたずねた。
 
紗江子はしめた、と俯いて唇を湿らせる。
 
好都合にも、この青年を家に引き込むチャンスが出来た。
 
 
「あ・・・、夫が暴力を・・・!
 た、助けてください!!」
 
こんなことを言うと、逃げられてしまうか人を呼ばれるかもしれないが、この青年は正義感が強いらしい。
 
険しくさせた表情で、家の中へと踏み込んできた。
 
「失礼します・・・!」
 
 
―「きゃぁぁあーー!ママーー!ママぁーー!!」
 
青年が答えたのと同時に耳に突き刺さるような悲鳴が・・!!
 
「美夏!?」
 
混乱に達する紗江子に対し、青年は靴をはいたまま疾風のごとく駆け出した。
 
 
―――・・・
 
 
玄関を突っ切って、悲鳴がするほうへ向かうとそこには見るに耐えない光景が広がっていた。
 
 
男が幼い少女の頭を殴る姿だ。
 
青年は状況を測りかねたまま、少女に掴みかかる男の肩をなぎ倒す。
 
背中に紗江子の悲鳴を受けながらも、二の腕で男を壁に押し付け、魔導火をかざした。
 
 
《違う。
 この男はホラーじゃない。》
 
「何?!」
 
自分の左手から聞こえてきた声に、青年は吊りあがった眉をわずかにひそめる。
 
 
 
青年が腕の力を緩めると、男は重力に従って崩れた。
 
その時初めて、男が涙を流していたことに青年は気付く。
 
 
「ままぁ・・・!」
 
「美夏!みか・・・!」
 
頬を大きく腫れ上がらせて泣きつく少女を、母親はひしと抱いて震えていた。
 
 
 
「お、おい!アンタ・・・!
 誰だか知らんが助かった・・・。」
 
スーツ姿の男がはぁ、と息を漏らす。
 
なんなんだ、この状況は・・・。
 
青年は複雑な現状に辟易とした感覚をおぼえた。
 
 
「も・・もう嫌だ・・・耐えられない・・・!!
 いっそ俺を殺してくれ・・・!」
 
土井亮が廊下に蹲りながら喋る。
 
そんな夫をどこか残念そうに一瞥した紗江子は、腕に抱えた娘に極力冷静に話しかけた。
 
 
「美夏・・・ママと一緒にリビングに行きましょう?
 ね、ね?」
 
「う・・うん・・・・!」
 
幼い少女を抱きかかえた母親は、逃げるようにその場を離れた。
 
その背中を見つめながら、青年は左手の指輪に話しかける。
 

「・・・この男はホラーではなかった。
 一体誰がホラーに憑依されているか分かるか?」
 

《・・・・。
 ・・・・・。
 ダメだ、鋼牙。
 この家中からおびただしいほどのホラーの気配を感じる。
 どいつがホラーかなんて判別できん。》
 
「・・・嫌な気配だ。
 作為的なものを感じる・・・。」
 
 
土井亮は白いコートの青年の言葉に、わずかな希望を見出した。
 
―!・・この男は何か知っている。
 
俺が正しいことも証明できるはずだ。
 
青年の足に縋りつきながら、土井亮は喚いた。
 
 
「ど、どうなってるんだ・・・。
 なぁ、アンタ教えてくれ・・・!
 美夏は化け物だ!化け物なんだよな!?
 俺はおかしくなんかない!
 俺はあの化け物を倒そうとしただけだ・・・!」
 
殴られて泣き叫ぶ娘の顔が土井亮の脳裏に浮かぶ。
 
違う、あれは全部まやかしだ!
化け物が美夏のふりをしているんだ。
 
自分を守るためにはああするしかなかった。
 
見上げた青年に許しを請うが、彼は冷ややかに土井亮を見下ろして足にまとわりつく腕を蹴り剥がす。
 
「うっ・・・!」
 
再び床に倒れ込みながら泣き伏せた。
 
 
「助かりたければこの家で起こっていることを話せ。」
 
 
冷徹に命令する青年は果たして敵か味方か。
 
そしてさっきの土井美夏の様子は一体・・・。
 
分からないことが多すぎて、羽根沢の頭は混乱していた。
 
 
「ちょ、ちょっと待て!
 君は一体何者だ!?
 俺は警視庁捜査一課の羽根沢慎一。
 いきなりやってきた割には随分と落ち着いているじゃないか!
 君こそ何か知ってるんじゃないのか!?」
 
青年はただ鬱陶しそうに横目を向ける。
 
 
《・・・人間が多いな・・・。》
 
 
「なっ!?なんだ!?
 さっきから誰が喋ってるんだ!?」
 
青年はやれやれと息をついて、羽根沢に向き直る。
 
次の瞬間、シュっと眼前を光がすり抜けた・・・!
 
 
羽根沢ははっとして、直立のまま固まった。
 
喉元に銀色に光る剣が突きつけられている。
 
 
いつの間に抜刀したのか。
 
いや、それ以前に剣など持っていたか?
 
 
なんだよ。
 
結局、俺は基本的にピンチってか?
 
羽根沢の背中は冷や汗でぐっしょりとぬれていた。
 
 
青年の造形物のような均整の取れた顔が、逆に恐怖に思える。
 
きっとコイツは片眉一つ動かさず、俺の首を落とすことだって出来るだろう。
 
 
刑事として情けないが、俺には成す術もないことを悟った。
 
 
 
「巻き込まれたくなければ、口も目も閉じていろ。
 どうせ、貴様には何も出来はしない。」
 


そう告げると青年は剣を納めて、再び土井亮に向き直る。
 
 
その声はやけに透き通って俺の耳に届く。
 
・・・・待てよ。
 
俺は刑事だぞ。
 
得体の知れない事件を前にして、ただ震えていろってか?
 
この正体不明の男に全てを委ねて、ただ黙っていろというのか?
 
俺にだってプライドはある。
 
 
「きょ、協力させてくれ・・!
 君の邪魔はしない!
 ただ、何が起こっているのか知りたいだけだ・・・!」
 
 
「・・・。・・・・好きにしろ。」
 
 
《鋼牙・・・掟違反だぞ!》
 
「時間の無駄だ。
 問答をしてる間に夜が明けてしまう。
 さっさと片付けるぞ。」
 
 
 
―――・・・・
 
 
「・・・見せたいものがある・・・。」
 
よろよろと立ち上がり、土井亮は2階へと続く階段に案内した。
 
2階の突き当たりの部屋の前で、土井亮は立ち止まる。
 
神妙な顔でポケットから鍵を取り出し、部屋の扉を開けた。
 
 
「・・・子供部屋・・・。
 さっきの女の子のか?」
 
父親に続いて部屋に入った青年が呟くようにたずねる。
 
「それにしても・・・・」
 
 
その子供部屋は、もう何年も誰も足を踏み入れてないような・・・埃と古めかしい匂いに満ちていた。
 
風化が進み、ビリビリになったカーテンの隙間から注ぐ月明かりが、舞い上がる埃を映し出す。
 
まるでこの部屋だけ時が止まったような感覚がした。
 
青年はサイドテーブルに置かれている写真立てを手に取り、埃を指で払う。
 
そこには父親の土井亮、母の紗江子・・・そして真新しいランドセルを背負った少女が満面の笑みを浮かべていた。
 
 
「1ヶ月ほど前、・・・・死んだはずの娘が帰ってきたんだ。
 何食わぬ顔をして・・・、家にいた・・・。」
 
 
「・・・・。」
 
「・・・ど、どういうことだ!?
 美夏ちゃんがすでに死んでるだって?
 じゃあ、さっきのは一体誰なんだ!?」
 
羽根沢は父親から飛び出た言葉に驚いた。
 
 
「俺にも分からない。
 いや・・・聞かないようにしていた。
 大切な娘が帰ってきた。
 その喜びで頭がいっぱいだったんだ・・・。
 美夏が帰ってきたことで、冷え切っていた夫婦仲もよくなり、俺は束の間の幸せを取り戻した・・・だけど・・・。」
 
一旦、言葉を切った土井亮は指先をいじる。
 
「だけど?」
 
話の続きを促す羽根沢に目をやると、再び重い口を開き始めた。
 
 
「次第におかしいことに気が付き始めた・・・。
 帰ってきた美夏は・・・確かに見た目は美夏だった・・・でも・・。
 美夏は妻が出す食事以外一切口にしないことに気が付いた。
 昔、大好きだったお菓子も、ケーキも食べない。
 そんなある日出された夕食に、人間の爪らしきものが入っていて・・・。
 問い詰めたが妻は気のせいだと言った。
 だがどうしても気になった俺は、仕事に行くふりをして妻を監視し・・・。
 そして見てしまったんだ・・・!」
 
土井亮の体がガクガクと震え始めた。
 
彼が何を見たのかはもはや明白で、羽根沢は一連の誘拐殺人事件の犯人を思わぬところで突き止める。
 
「連続誘拐殺人事件の犯人は、土井紗江子だったのか・・・!
 だが、何故そんなことを・・・!?
 それに死んだ娘が帰ってくるなんて基本的にありえないだろ!」
 
 
「分からない、分からない・・・!
 ただ、俺は恐ろしくて・・・!
 初めは美夏だと思った。
 だけど・・・違う!違うんだ・・・!
 あれは美夏だけど美夏じゃない!
 なぁ!教えてくれ!!俺の頭がどうかしているのか!?」
 
パニックに陥ったように、土井亮は頭を押さえて床に蹲った。
 
 
青年は何かを考え込むような表情で、子供部屋の中を一通り見渡す。
 
 
「・・・・・。」
 
《ホラーはあのお嬢ちゃんだったわけか・・・・。
 両親はホラーにエサを与えるための道具だな。》
 
 
「・・・・本当に、そうだろうか・・・。」
 
《 ? どういう意味だ、鋼牙?》 
 
「・・・あのホラー・・・・。
 なぜ、父親にばれていると知っていて殺さなかった?
 食おうと思えばいつでも機会はあったはずだ。
 手ごろなところにエサがあるのに、あえて別の人間達を襲っている。
 さっきもそうだ。
 ただ悲鳴を上げて父親に殴られていた。」
 
まるで、本当にただの子供のように。
 
《まさか・・・あのホラーには両親への愛情がある、とでも言いたいのか?》
 
 
「馬鹿げた仮説だな・・・。」
 
自らに嘲笑を浮かべて、青年は頭を振った。
 
 
「しかし・・・あの美夏という少女がすでに亡くなっているのなら、ホラーは死体に憑依していることになる。」
 
《奇妙だな。》
 
指輪と会話する青年に痺れを切らして、羽根沢は苛立ちを顕に話しかける。
 
「ひとつ聞きたい。
 君が・・・というかさっきから謎の声と話している、そのホラーってのは幽霊かなんかか?
 そんな存在認めろってか?
 どうかしてるぞ!」
 
 
「認めようが認めまいが好きにしろ。
 ただ、俺からも一つ忠告しておく。
 無知ゆえの愚かさは捨てろ。
 そうすれば生き残れる。」
 

青年は突き放すように言い捨てると、靴音を立てて部屋を出て行った。
 
「・・・ご教授どうも。」
 
羽根沢は、ひとり子供部屋で座り込む土井亮の背中を見る。
 
ひどくちっぽけで貧相だ。
 
 
戻ってきた娘は化け物で、カミさんと一緒に人間の肉を食ってる。
 
まともな状態ではいられないだろう。
 
 
土井亮はこんな生活を終わらせたかったはずだ。
 
現に、俺を逃がそうとしていたし、娘の美夏を殺そうとしていた。
 
ふと、疑問に思う。
 
母親の土井紗江子は、今の生活で満足なのだろうか?
 
娘だが、娘ではないものを愛しているのだろうか?
 
娘に良く似た化け物に食わすために、人殺しまでする。
 
それが愛だといえるだろうか?
 
 
俺には子供がいない。
 
だが、もし俺が死ねば俺の両親もそうするのだろうか?
 
 
 
答える者は無かった。
 
 
 
 
―――・・・・
 
 
二階を探索しながら、青年は魔導輪の言葉に耳を貸す。
 
 
《しかし鋼牙・・・この家に渦巻くホラーの気配は一体どこからくるんだろうなぁ。》
 
「この家そのものが陰我を放つオブジェなってしまったんだ。」
 
家の壁を叩いて音を確かめていると、つい最近塗り替えられた部分を見つけた。
 
《 ! なるほど、おそらくそれは当たりだ。
 この家で殺された人間は10はいるんだろう?
 オブジェとしては最適だな。》
 
 
「もう一つ気になるのは、あの子供のホラーだ。
 一体どうやって少女の遺体に憑依したのか・・・。
 それに、両親にまるで死んだ娘が帰ってきたと思わせるほど、人間らしい・・・。
 何か裏があるはずだ・・・。」
 
 
魔導輪と平静に会話しながら、青年は朱塗りの鞘でその壁の部分を叩いてぶち破る。
 
《そんな小細工が出来るのは、魔界の知識に精通したものだけだ。
 このホラーの裏側にいるのは・・・もしや・・・・。》
 
空いた穴に腕を突っ込むと、彼の予想通り“あるもの”を掴めた。
 
青年が取り出したのは一枚の札と少女の写真。
 
それは丁度子供部屋の反対の壁に位置する場所から出た。
 
 
青年は目の前に重く厚い暗雲が立ちはだかるのを感じる。
 
「・・・・裏切り者がいる。」
 
 
 
―「おい、何してるんだ?」
 
羽根沢は、誰もいない一室で佇む青年に声をかけた。
 
「・・・貴様には関係のないことだ。」
 
「関係ならあるだろ。
 基本的にもう俺も巻き込まれてしまってるんだ。
 まぁ、刑事がどうこう出来る事件じゃないってことだけは分かったけどな。
 死んだ娘が帰ってくるなんてこと、ありえると思うか?」
 
 
「死んだものは帰ってこない、絶対に。
 あれは土井美夏じゃない。」
 
「じゃあ、その・・・“ホラー”って化け物なのか?
 それは俺達が言うところの悪魔やなんかか?」
 
「・・・そんなようなものだ。」
 
 
まさか本当に肯定が帰ってくるとは思わず、羽根沢は鼻で笑った。
 
 
「まるでファンタジーだな・・・!」
 
「・・・現実はもっと救いようがない。」
 
 
目の前の青年は手に持った何かに注視しながら、低く答える。
 
 
「君はさしずめ、エクソシストってか?」
 
「違う。
 彼らは追い払うだけ・・・。
 
 俺は殺せる。」
 
 
ここまではっきりと「殺せる」と発言する人間を、羽根沢は初めて見た。
 
同時に自分の中に躊躇いが生まれる。
 
あの少女が、ホラーならば・・・。
 
 
「・・・・。
・・・・・あの子を殺すのか?」
 
「そうだ。」
 
 
「本当に人間じゃないんだな?」
 
「何度も言わせるな。」
 
 
青年にはためらいがない。
 
羽根沢は覚悟を決めることにした。
 
もし、彼の言うとおり本当に土井美夏が化け物ならば、協力して倒す。
 
しかし、土井美夏が本当はただの人間の少女ならば、青年を止めて、俺が両親を刑務所送りにする。
 
 
「分かった。
 ・・・俺も協力する。」
 
 
羽根沢と白いコートの青年二人の会話を、土井亮は沈痛な面持ちでただ聞いていた。
 
 
 
―――・・・・
 
 
 
 
一階に下りると、薄く開かれたリビングの扉からあの母子の姿が垣間見えた。
 
 
その光景は青年に「ホラーではない」と錯覚を起こさせるほど親子の情に満ちている。
 
 
人間とホラーの境界は決定的なようでいて、あまりにも曖昧だ。
 
奴らは人と同じ言葉を喋ることもでき、感情も、個体もある。
 
斬りつければ血を流し、断末魔の悲鳴も上げる。
 
 
心の奥底に芽生える迷いを、頭を振って追い払う。
 
 
俺がホラーを斬れる最大の理由は、俺が人間を食べないからだ。
 
 
 
 
 
 
 
リビングのソファで土井紗江子は美夏を膝に乗せて、頭を撫でた。
 
その瞳は柔らかく、母親が子に無償の愛を注ぐものだ。
 
 
「ねぇ、ママどうして?
 パパはどうして美夏を好きになってくれないの?」
 
「ほんと、どうしてかしらね・・・。
パパも早くわかってくれるといいんだけど。」
 
 
―「偽りの娘を抱いて幸せか?」
 
 
白いコートの青年が、険しい表情で現れる。
 
紗江子はぎゅっと守るように娘を抱きしめた。
 
青年の手に剣が握られているのを見つけて、母親はギッと睨みつける。
 
 
「“彼”が言ってた敵ってあなただったのね・・・!」
 
「“彼”?」
 
 
「彼は言ったわ!
 私達家族の幸せを壊しにくる奴がいるって・・・!
 渡さない!私の娘は誰にも渡さないわ!!」
 
 
ソファを下りると、青年を威嚇しながら紗江子は娘を抱きしめて後ずさる。
 
「幸せだと?
 そのために一体何人犠牲にした・・・!」
 
青年が初めて声を張り上げた。
 
 
「自分の子供のためなら、どんなものも犠牲にするのが母親ってものでしょう!?」
 
 
羽根沢の耳にも、土井紗江子の娘に対する狂愛が届く。
 
文字通り、どんなものも犠牲にした殺人犯が目の前にいる。
 
そう思うことで、錯覚を起こしそうになる自分の良心と羽根沢は戦っていた。
 
 
「それはあんたの子供じゃない。」
 
 
「違う!
 私の娘よ・・・!
 私のせいで死なせてしまった、大切な娘よ!!
 だから決めたの!
 今度こそどんなことをしてでも守ってみせる・・・!」
 
 
「はっ・・・・!」
 
妻の言葉に、土井亮は目を見開いて奥歯を噛む。
 
 
「どけ!」
 
青年は剣を振りかざして、土井紗江子とその娘の前に立った。
 
 
 
「待て!!
 待ってくれーー!」
 
それまで黙って状況を見守っていた土井亮が青年の前に立ちはだかる。
 
妻と娘を守るように、両手を伸ばして二人をその背に隠した。
 
 
「こ、殺さないでくれ・・・!
 どんな罰でも受ける!
 でも、どうか命だけは・・・!」
 
 
「ふざけるなっ!!
 他人の命を奪っておいて、勝手なことを言うな!」
 
青年は語意を荒げて、土井亮を制する。
 
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・!!
 許してください・・・・!許して・・・・っうっうっ・・!」
 
「ママ、パパ!怖いっ!
 怖いよーー!!」
 
「大丈夫!大丈夫よ、美夏!
ママ、ぜったい美夏のこと離さない・・・!
 今度こそ、離さないからね・・・・!
 パパとママがぜったい守ってあげる!守ってあげるから・・・!」
 
 
懸命に娘を守ろうとする両親の姿に、羽根沢の心が揺れた。
 
「私死にたくない、死にたくない・・・!助けてーー!」
 
少女が泣き叫ぶ。
 
それは羽根沢には耐えられるものではなかった。
 
 
俺は弱いものを守るために刑事になったはずだ・・・!
 
だが、これは・・・!
 
そして俺は・・・・。
 
 
剣を携えて、少女を切り殺そうとしている青年がどうしようもなく凶悪に見えた。
 
「ま、待て!!
 本当に土井美夏は化け物なのか!?
 俺には・・・どうしてもそうは見えない・・・!!」
 
 
「奴の声に耳を貸すな・・!!
 連中は人間の心の隙に付け込む!」
 
青年は羽根沢の横槍で土井美夏から目を離してしまう。
 
その一瞬の隙を、ホラーは見逃さなかった・・・!
 
 
「ははははっ!それ以上近寄るな!魔戒騎士・・!!」
 
少女の声とダブって獣の咆哮が下卑た笑いを浮かべる。
 
土井亮、そして紗江子の二人の首を片手で締め上げた。
 
「ぐっ・・・!」
 
人質をとられ、青年は苦い表情を浮かべる。
 
 
「優しいパパとママ。
 大好きよ。
 近付くと、この二人の首をへし折るぞ!!
 
 
少女の声が優しく、不気味に化け物の声へと変わっていく・・・。
 
 
「み、美夏ちゃん!?」
 
「じ、自分の娘に・・・殺、されるのか・・・!」
 
 
 
土井亮が死を覚悟したその時、青年が疾風のように土井美夏の胸を剣で突き刺した・・・!
 
 
「きゃあぁぁぁーー!!」
 
 
「みかぁーーー!!
 美夏、美夏・・・!!」
 
胸から血を流してのたうちまわる娘に、母親が半狂乱になって縋りつく。
 
土井美夏の体は徐々に変容していき、ホラーのおぞましい姿を顕にした。
 
しかし、紗江子と亮はそんな化け物の姿に怯えるどころか、頭を撫でたり止血しようとしている・・・!
 
羽根沢は信じがたい現実にただ立ち尽くすしかなかった。
 
 
「あ、あぁぁあなた!
 美夏の血が止まらない・・!!
 止まらないのーー!
・・・あの時と同じ・・・!!」
 
「あぁ、美夏!美夏ぁ!!」
 
夫婦の顔が絶望に歪む。
 
 
 
「-・・・!」
 
 
《鋼牙、何をためらってる!?
 まさかこの親子に同情してるんじゃないだろうな?
 このホラーは父親と母親の愛情を利用して多くの人間を食ったんだぞ!!》
 
魔導輪の言葉に、追い詰められたような感覚になった。
 
 
「・・・!
 こんなに愛されているのに・・・・人間じゃないなんて・・・・!」
 
 
青年はどこにぶつけるとも知らない憤りをおぼえて剣を握り締める。
 
振り切るように天に剣の切っ先を掲げて、円を描いた。
 
まばゆい光が当たりを包み込み、黄金の鎧が現れ、くぐもった青年の声が辺りに響く。
 
「悲しみに捕らわれ、ねじれた愛に縛られ!
 闇を彷徨う貴様の陰我!
 この俺が断ち切ってやる・・・!!」
 
 
全ては一瞬のうちに終わった。
 
金きり声を上げる小さな化け物を黄金騎士は両親から奪い、窓際に投げつけるとその体を一刀両断した。
 
 
霧散した骸とともに、黄金に煌く光が舞い落ちる中、白いコートの青年が立っている。
 
辺りに響くのは絶叫にも似た、両親の泣き声だった。
 
 
朝日が徐々に部屋に明かりをもたらし、夜の終わりを告げる。
 
 
「・・・・今さら何の役に立つとも思えないが・・・。」
 
最初に口を開いたのはやはり青年だった。
 
 
静かに夫婦に歩み寄ると、一枚の写真を差し出す。
 
それは、あの壁から出てきたものだ。
 
土井亮は、すすり泣く妻を宥めながら、片手を伸ばして青年から受けとる。
 
 
青年は写真を渡すと、言葉もなくそのまま家を出て行った。
 
 
呆然としていた羽根沢は、その足音でようやく我に返る。
 
同時に青年に対する憎しみにも似た、怒りが湧いてきた。
 
自分でも良く分からないまま、彼の後を追って家を飛び出す。
 
去っていく白いコートに怒りのまま叫んだ。
 
 
「待てこの野郎!!
 お前には良心ってものがないのか!!?
 あんな・・・小さな子をよくも・・・!!
 あの夫婦にはあの子が必要だったんだ!!
 喩え化け物だろうと何だろうと関係ない・・・!
 あの子を愛してた・・!
 お前の方こそ化け物じゃないか!!」
 
 
捲くし立てるように怒鳴り終えると、ぜぇ、ぜぇ、と肩で息をした。
 
ただ黙って羽根沢の罵声を背中で受け止めた青年の表情はうかがえない。
 
「・・・・そうだな。」
 
 
たったそれだけ。
 
やはり気は治まらず、二の句を告げようとしたその時・・・・
 
 
「待ってくれ、刑事さん!」
 
 
止めに入ったのは土井亮だった。
 
その手にはさっき青年から渡された写真が握られている。
 
 
「アンタが助けてくれなければ、俺も紗江子も、あの子の心も、もっと多くの人も死んでた・・・!
 ありがとう・・・!」
 
そう言って深々と頭を下げる彼に、青年はやっと振り返った。
 
それも心底怪訝な表情で。
 
 
「・・・俺は礼を言われるようなことは何もしていない。」
 
 
「それは違う!
 アンタが教えてくれなかったら、俺たちは知らないままだった。
 美夏の、美夏の願い・・・!
 俺も紗江子も、真にあの子を愛してなんかいなかった・・・・!
 愛してなんか・・・いなかったんだ・・・!
 だから見えなかった!美夏を、見てなかった・・・!
 
ありがとう・・・!!ありが、とう・・・・!」
 
 
涙ながらに語る土井亮に、青年は再び背を向けて今度は立ち止まることはなかった。
 
朝日によって白んできた空気にかすむように彼の背中は消えていく。
 
 
 
「・・・・刑事さん、これを見てくれ。」
 
羽根沢は土井亮から写真を手渡される。
 
それは日に当たって色あせた、土井美夏の写真だった。
 
人懐っこい笑顔を浮かべた少女は、もう二度と笑うことはない。
 
「美夏ちゃん・・・なんでこんなことに・・・。」
 
「娘を自動車事故で失ってから、俺たちはずっと自分たちを責めてきた・・・。
 だから、美夏が帰ってきたとき・・・・今度こそ守ろう。ちゃんと愛そうと決めた。
 けど、本当は怖かった。
 俺たちを・・・恨んで、殺しに来たんじゃないかって・・。
 あの化け物を美夏と思い込むことで、許されたかった。
 もう二度と娘を失いたくない、そんな思いが妻を犯罪に駆り立てていたんだ・・・。
 でも、もう終わりだ!
 これからはちゃんと向き合うよ!美夏の死と・・・!
 刑事さん、俺は妻とともに自首する。
 もう少し・・・もう少しだけ妻が落ち着いたら・・・必ず、警察署に出頭する・・・。」
 
 
「土井亮・・・。」
 
 
「だから・・・!
 こんなことを頼める立場じゃないのは分かってるが、彼を!あの青年のことは誰にも・・・!」
 
 
「・・・分かってるさ。
 基本的に、誰に話しても信じてくれる内容じゃないしな・・・。
 だが、何故だ?」
 
 
「彼に救われた・・・!
 せめてわずかでも恩に報いたい。」
 
 
羽根沢は土井亮が娘の写真をまっすぐに見つめていることに気が付いて、なんとなしに裏返す。
 
そこには・・・かすれて消えかかっているが、確かに土井美夏からのメッセージが記されていた。
 
 
「・・・・!は・・・。
 そうか・・・。そうだったんだな・・・・。
 くそぉ、あの野郎・・・。
 ・・・・。
 
 礼ぐらい言わせろってんだーーー!!」
 
 
青年が消えていった朝日に向かって羽根沢は大声を張り上げた。
 
 
 
未だ全てを信じたわけじゃない。
 
昨夜起こったことも、本当に現実だっただろうか、と思う。
 
だが一つだけ確かなことがある。
 
 
彼がこの家族を救い、・・・俺の命も救い、
 
 
そしてもっと多くの命も救った、ということだ。
 
 
 
 
「ありがとう、魔戒騎士・・・。」
 
 
その声は届かなくとも。
 
いつかは土井美夏が残したメッセージのように、・・・・心に届くはず。
 
 
 
“ パパ ママへ
 
  みかが しんじゃったのは パパとママのせいじゃ ないよ。
 
  だから もう けんかしないで ください。
 
  いまも みかは パパとママが だいすきです!
 
                            みか “
 
 
 
 
―――・・・
 
 
 
 
 
「ザルバ、あの母親が言ってたこと・・・覚えているか?」
 
 
《ああ、“彼”が・・・とか言ってたな。》
 
 
「何者かが、ホラーに死んだ少女の情報を吹き込んだんだ。
 まさしく娘そのものになるように・・・・!
 母親の感情を利用して・・・人間を殺させた者がいるんだ・・・!
この札は・・・ホラーを誘い込むための呪符。
魔戒法師か魔戒騎士しか知らない・・・!」
 
 
青年は懐から出した札を握りつぶした。
 
 
《・・・許しがたいな。
 だが、関係者の仕業だとしたら、相当厄介なことになりそうだ。
 きっとこれが終わりじゃない・・・。》
 
 
自然と早くなる歩調で、湧き上がる怒りを抑え込みながら青年は家路を目指す。
 
 
 
新たな脅威が、すぐそこまで迫っていた・・・。
 
 
 
  
 
 
序章―『The crooked house』― 完
 
 

拍手[24回]

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Comments
なな様、基本的にwめっちゃありがとうです!!
応援ほんとにありがと~~~!v

一二三がんばる・・・!

次回もご期待ください!
Posted by 一二三(管理人)です - 2011.08.24,Wed 23:04:40 / Edit
龍鈴様、お楽しみに☆
拍手とっても嬉しいです!ありがとうございます!!
感想や応援をいただけるとすごく励みになります!がんばります☆

次回、ダークサイドに落ちた魔戒法師がダースベイダーとして帰ってくるよ!!←嘘予告w
Posted by 一二三(管理人)です - 2011.08.24,Wed 23:05:11 / Edit
ハルカ様、そう言って頂けてとても嬉しいです!
拍手とってもありがとうございます!
お褒め頂き光栄です。

この話を書くにあたって、ホラー映画を見まくった甲斐がありましたww
やっぱり気分から入らないとですよね・・!

・・・そのせいで、背後にずっと誰かの気配を感じながら執筆しなければなりませんでしたがww笑

文面から一二三のw緊張感を感じていただければ、幸いです☆

では!またの機会お待ちしております!
Posted by 一二三(管理人)です - 2011.08.24,Wed 23:05:52 / Edit
MAKI☆様、初めまして!!
ようこそ!管理人の一二三です。
ご挨拶が遅れまして、大変失礼をいたしました;汗

>勇気を出してメッセージ
ありがとうございます!!大丈夫!安心してくださいませv
手を出しても一二三、噛んだりしませんよww笑

拍手も贈ってくださり、本当に嬉しいです。
どうぞこれからもたくさん遊びに来てくださいね!

MAKI☆様に楽しんでいただけるよう、頑張ります☆
Posted by 一二三(管理人)です - 2011.08.24,Wed 23:06:24 / Edit
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