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Posted by 一二三 - 2010.09.23,Thu

零視点の零+鋼牙な小説です。

BLではないので悪しからず☆



零が鋼牙になぜ魔戒騎士になったのか、を聞く話。


『原点』


続きから小説→


俺、涼邑零はこの度、西の管轄から東の管轄へと移動になった。
 
 
暗黒騎士との一連の戦いが終わってからというもの、東の管轄は平穏な時を取り戻し、以前のように頻繁にホラーが出現することもなくなった。
 
 
静香と師の仇も亡くなり、俺は復讐に生きる魔戒騎士から、「ただ」の魔戒騎士へと変わったのだ。
 
環境と、俺自身の生き方の変貌に心情は未だに置き去りの状態にあり、瞬く間に過ぎ去った激動の100日余りが、現状に物足りなさすら感じさせていた。
 
 
『原点』
 
 
 
空中に浮かんだような感覚を持て余していた俺は、気が付けば北の管轄を目指していた。
 
 
 
《・・ちょっと、ゼロ!管轄越えは掟に反することだと知っているでしょう?》
 
「今更だなぁ・・」
 
ネックレスからグローブへと移動させた相棒、シルヴァの咎める声に面倒臭く答える。
 
 
「別に、ホラー退治に行こうってわけじゃないんだしさ、固いこと言いっこなし!」
 
 
バイクで風を切りながら晴れやかに告げると、シルヴァはやれやれと息を漏らした。
 
《しょうがない人ね。
 それで?
 北に何をしにいくの?》
 
「原点にね・・、会いにいくのさ。」
 
《・・・“原点”・・・ね》
 
 
 
 
 
 
「おお!零殿ではありませんか!
 む・・・、しかしあなたは鋼牙様に代わって東の管轄を任されたのでは・・?」
 
はて?と出迎えた執事が首を傾げた。
 
「よっ!ゴンザ!
 元気そうだね!鋼牙いる?」
 
 
今だ疑問符を浮かべるゴンザに案内を促すと、彼は慌てて屋敷へと招きいれる。
 
 
「こちらでお待ち下さい。」
 
広い客間に通され、置いてあるソファに零はゆっくり腰掛けた。
 
そそくさと部屋を後にするゴンザの背中を見送りつつ、ぐるりと部屋を見渡す。
 
 
立派な装飾に、かつて住んでいた道寺の屋敷を思い出した。
 
(全く・・・、魔戒騎士ってのは裕福だよなぁ。)
 
 
 
「零、   何の用だ」
 
しばらくして現れた黄金騎士は、やはり仏頂面を浮かべていた。
 
「相変わらず、ご挨拶だな~。
 ちょっと話があってさ。
 悪いけどシルヴァ、ザルバと二人でお喋りしててくれるかな?
 俺、鋼牙と話したいからさ。」
 
 
俺の言葉を汲み取ったのか、鋼牙は徐に左手の中指からザルバを抜いた。
 
こいつは無神経そうに見えて実は結構思慮深い奴だ。
 
初めの頃は気付かなかったが。
 
 
《おい、鋼牙!魔導輪扱いがなっちゃいないぜ?》
 
のけ者にされるのが不服なのか、ザルバは噛み付くように鋼牙に語りかける。
 
「シルヴァと話していろ。」
 
 
問答無用に切り捨てると、ゴンザにザルバを預けた。
 
《・・・ザルバの相手なんて、あたしはいやぁよ。》
 
俺もグローブを外し、鋼牙のあとについて場所を変える。
 
 
 
鋼牙は3歩前、廊下を歩きながら、背中のまま尋ねた。
 
「・・・で?
 わざわざ、ザルバやシルヴァを外すことにはそれなりの理由があるんだろう?」
 
 
「まぁ、ね・・・」
 
答えながら、俺はコートのポケットから煙草を取り出す。
 
シルヴァの前では吸わないと決めていた。
 
 
「・・・屋敷の中ではやめてくれ。
 匂いがつくから。」
 
俺が一本咥えたところで、鋼牙はベランダへと続くガラス戸を開けた。
 
よく暖められた屋敷の中に、北国の冷たい空気が流れ込む。
 
(さむ・・・)
 
俺は脇を閉めて、ベランダに出る鋼牙に続いた。
 
 
外はすでに夜の蚊帳が下り、広大に広がる雪原が幻想的に輝いている。
 
鋼牙は手すりにもたれるように姿勢を崩し、俺は寒さで鋼牙の隣に座りこんだ。
 
 
 
まあ、鋼牙は吸わないだろうな・・・と思いつつも煙草を一本差し出すと、意外にもすんなりと受け取り、慣れた手つきで火をつけた。
 
 
「・・・吸うんだ」
 
 
「時々」
 
 
淡白な答えと共にすうっと煙を吐き出す。
 
 
決して厚着とはいえない鋼牙の格好に思わず尋ねた。
 
「寒くないの?」
 
 
「寒くない」
 
「・・・やせ我慢」
 
「してない」
 
 
 
「お前はちょっと格好悪いな。」
 
鋼牙は俺を斜め上から見下ろして言う。
 
「・・・寒いの嫌いだから。」
 
俺は自分の身体をかき抱くように見せて答えた。
 
 
 
寒いし、そろそろ本題に入ろう・・・と零は思う。
 
「・・・なぁ、なんでお前は魔戒騎士になったんだ?
親が魔戒騎士だったから、なんて理由じゃないよな?」
 
 
「まさか」
 
「・・・だよなぁ。」
 
 
 
 
「・・・そうだな・・・。
 強いて言うなら・・・そう在るべき、と思ったから・・かな。」
 
 
「?」
 
 
「人にはそれぞれの生き方がある。
 魔戒騎士としての父を尊敬しているし、父のような生き方もそれはそれでいいと思う。
 ただ・・・俺にとっては魔戒騎士であることも、単なる形に過ぎない・・・。
 まあ・・それも、どうかとは思うが・・・。」
 
 
「そんなこと考えて魔戒騎士してんだ・・・」
 
 
「そんなこと考えながらこの仕事は出来ないさ。」
 
「じゃ、なに考えてんだ?」
 
「仕事のことだ」
 
 
「意味わかんね・・・」
 
 
「オブジェが放つ邪気は一つ残らず浄化されているか。
 人間が餌食になっていないか。
 襲われたものは怪我一つないか。
 建物や道は壊れていないか。
 そこにあるべきものが当然のように、そこに変わらずあること。
 人々の生活にホラーによる不安や恐怖を感じさせないこと。
 そういうものが完璧だと、気分がいい。」
 
 
 
「・・・なるほどね。
 おかげさまで仕事が嫌になったことはない?」
 
 
「時々あるな。
 だが、風邪みたいなもんだ。
 食べて寝れば、すぐ直る。」
 
 
「・・・駄目だな、煙草は。暇つぶしにしかならん・・・。」
 
鋼牙は残りわずかになった煙草を手すりに積もった雪に押し付け、コートの懐からウィスキーを取り出す。
 
「飲むか?」
 
「いらない。
 ・・・・絶対俺のほうがいい子だと思う。」
 
 
     ・・鋼牙はおもしろい奴だ。
 
潔癖そうに見えて実はそうでなく、掟に忠実なように見えてあっさりと破る。
 
誉れ高い牙狼の家系の者なのに己の腕にも地位にも溺れることがない。
 
 
「・・・誰かが死んだとき、その人の人生がどんなものだったかと考える。」
 
酒が入ったせいか、今日の鋼牙は饒舌だった。
 
「生きたといえるだけの人生を生きられたのか・・・。」
 
 
零も時々そう考えることがあった。
 
「生きたといえるだけの人生を生きたいから、やったと言えるだけのことをやりたいんだ。
 俺が魔戒騎士になったのは・・・突き詰めればそういうことだな。」
 
 
「命をかけて初めて、生きていると実感できる?」
 
零が鋼牙の真意を尋ねると「なんだ、お前もか」と返された。
 
「ろくでもないな・・・。」
 
 
「全くだ」
 
 
認めるのは癪だが、やはり鋼牙に会いに来てよかったと零は心の中で思った。
 
実は黄金騎士に憧れていた、と吐露したときからこいつには勝てないと思っている。
 
零は、素直に明日からも頑張ろうと思えた。
 
 
変わり映えのしない毎日だが、原点に立ち返れば、それも悪くないだろう。
 
 
復讐に駆られて、孤独に戦っていた頃とは違うのだから。
 
 
 
 
ただ鋼牙と零がべちゃくってる話。
『エマ』のアデーレとマリアの関係は鋼牙と零に似てる気がする・・・。
あの二人の会話は大好きですね。

拍手[27回]

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Comments
こちらこそ感激です!
拍手でコメントくださった杜河様、本当にありがとうございます!
ご挨拶が遅れて申し訳ありません;


メッセージとても励みになりました☆
これからも気に入ってもらえる作品が書けるよう、努力して参ります。

ぜひ、また来てください♪
Posted by 一二三(管理人)です - 2010.10.31,Sun 22:32:19 / Edit
龍鈴様、たくさんご感想ありがとうございます!
とっても嬉しいですよ!

やさぐれ鋼牙w一二三は好きですw
魔戒騎士みたいな生き方していると、みんな品行方正とはいかなそうな気がします。
    
>煙草すってるとキスしたとき美味しくない

な、なんだってー!?;    
そこは;・・・魔戒印のブレスケアでスッキリ解決☆


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Posted by 一二三(管理人)です - 2011.07.04,Mon 23:27:55 / Edit
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